BCG Digital Ventures(以下、BCGDV)は、大企業との共創を通じて、新規事業を創出しているクリエイター集団です。2016年の設立から、現在4年目を迎えています。
ついに来た、2020年。いよいよ開催される東京五輪・パラリンピックに向け、街の様相も少しずつ変わってきています。経済的にも、今年はターニングポイントとなるのでしょうか。2020年がどのような1年になるのか、BCGDVジャパンヘッドの平井陽一朗がこれまでの軌跡を振り返りながら、未来の展望を語ります。
平井 陽一朗
BCG Digital Ventures マネージング・ディレクター&パートナー ジャパンヘッド
三菱商事を経て2000年にボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO(最高執行責任者)、ザッパラス社長兼CEO(最高経営責任者)を経て、2012年にBCGに再入社。メディア、エンターテインメント、通信業界を中心にアライアンス、成長戦略の策定・実行支援、特にデジタル系の新事業構築などを多く主導。また、BCG Digital Ventures東京センターの創設をリードし、開設後はジャパンヘッドとして、デジタルメディアやコマース等の新規事業創出、立上げ、出資など幅広く手掛けている。
(平井のダイヤモンドオンライン連載記事はこちら)
個が強い組織だからこそ、「チーム感」の醸成に注力した2019年
――天皇の即位、ラグビーW杯、自然災害など、色々なことがあった2019年でした。昨年はBCGDVにとってどんな1年でしたか?
2019年は幹部メンバーが変わったこともあり、第二創業期のような新鮮さがありましたね。
なかでも昨年は「ピープルファースト」を掲げて、人と向き合うことに注力をしました。BCGDVはプロフェッショナルの集合体なので、良くも悪くもメンバーの独立心が強いんです。だからこれまで、“カルチャー”の部分はあえて意識してこなかったのですが、最近は「チーム感」を醸成することに有用性を感じています。全員フリーランスでも生きていけるほどの実力がありながらもここに属しているわけなので、一定の帰属意識はあったほうが健全だし、個人のパワーが最大化できると思うんです。
オフィスのそばに新たにイベントスペースを構えたり、BCGがグループ全体で推進している「PTO(Predictibility, Teaming, and Open Communication)」というカルチャーを体現するための仕組みを導入したりしました。その結果、ピープルサーベイでも会社に対するメンバーの満足度は上がっており、今後、百人規模の組織に成長していくための土台ができた年だったのではないかと感じています。
――プロジェクトの観点から見た2019年はどうでしたか?
設立から4年目ということもあり、大企業との協業事例も増えてきました。かつてはメソドロジードリブンなところがありましたが、BCGDV東京としてのプロジェクトの進め方にバリエーションが出てきたために、よりクリエイティブさが増してきたように思います。
それには「新規事業」の捉え方の変化が影響しています。これまでは、協業先のコア事業に“隣接する領域”で、スタートアップのようにアジャイルな開発をして、子会社化していくのがセオリーの一つでした。もちろんこの方法は一つの正解ではありますが、スケールしづらい側面があることも分かりました。仮に数十億円の売上が生まれたとして、スタートアップならば万々歳でしょうが、大企業からするとインパクトは小さいんです。
大企業が持っているアセットを最大限に利用するならば、よりコア事業に近いところで新規事業を展開したほうが、あるいは新規事業でなくともコア事業の“改善”の手伝いをしたほうが、利益に貢献することができます。2019年は特に、既存のアセットを活かすことにフォーカスした年だったと思います。
――BCGDVがパートナーとして介入することでどんな化学反応が生まれるのでしょうか。平井さんから見て、内部から変革を起こしていくために大企業に足りていないと思うものは何ですか?
次に挙げる3つの職種は、伝統的な日本の大企業にはあまりいません。UIUXデザイナー、PM(プロダクトマネジャー)、それからエンジニアです。なかにはUXという概念がない企業もあるくらい、UXは軽視されがちです。UXのない状態でUIを考えるので、質の低いUIが出来上がってしまう。さらに色々な工程をアウトソーシングしているがゆえに、各工程をつなぎ合わせるPMがおらず、問題が発生しても即座に修正できるエンジニアもいない。
大企業は、戦略を考える力は強い。けれどもいざ実装するとなったときに、これまではどうしても外注せざるをえない部分がありました。だから大企業がUIUXデザイナー、PM、エンジニアというポジションを設けてきちんと育成すれば、それだけで強みになります。
「らしさ」を決め切らず、可能性を試す2020年に
――組織としての成長に大切なものは何だと思いますか?
まずは「仲間」ですね。BCGDVは各分野のエキスパートが集まっていて、職種が入り乱れているんです。“デザイン部”とか“システム部”みたいに分かれていない。だから、違う職種のエキスパートとも距離が近く、情報や刺激を得やすい環境にあると思います。
もう一つは「仕事の質」です。いくら技術があって優秀な仲間がいても、それを発揮する場がないとやる気が削がれてしまいます。仕事の何に面白さを感じるかは人それぞれ。メンバーの強みや関心領域をきちんと把握して、適切な人に適切な仕事をしてもらうことが、チームを盛り上げる上でとても大切です。
――2020年、BCGDVとして、平井さんとして成し遂げたいことは何ですか?
キーワードは「多様性」です。BCGDVとして取り組む仕事のバリエーションを増やしていきたいです。これまでは正直、BCGDVのカラーに合わないと判断した案件はお断りしてしまうこともありました。けれども、さまざまな個性を持ったメンバーが増えてきている今、チームとしての対応力を上げる段階に来ていると思います。協業パートナーの課題がどんな形であっても受け入れて、インパクトを出せる体制にしたい。BCGDVらしさを決め切らず、未開の可能性を試していきたいです。
BCGには「Grow by Growing Others」という言葉があります。他者を助けながら、自分も成長するという意味です。私自身は、立ち上げから今まで突っ走ってきて、他者との関わりにあまり目を向けてこなかったように思います。個人的には、これを意識する1年にしたいです。
また、これまでは企画フェーズで関わらせていただくプロジェクトが多かったんです。すると実際に作り、運用するフェーズになったときに、息切れをしてしまうケースも少なくなく、結局日の目を見なかったサービスもあります。今年は「作る」ところや「運用する」ところまで協業できるような形にこだわり、世の中に出るサービスを増やしたいです。
――遠くない未来に、テクノロジーが解決できる社会課題は何だと思いますか?
満員電車、フェアトレード、温暖化対策など色々と浮かびますが、私はトレーサビリティに注目しています。日本人は食にうるさい国民性なので、食材のルーツにさらなる可能性があると思います。日本は人口が減少していくので、経済的には大きく盛り上がらないかもしれません。でも、個人の人間性はどんどん洗練されていく。自分や子どもが口にするものがエシカルかどうかが、重要視されていくと思います。
しかし日本は他の先進国と比べて、オーガニック食品の流通量が圧倒的に少ないです。なぜかというと、オーガニック野菜の栽培はとても大変だからです。農薬が使えないので虫食い発生率は増しますが、少しでも傷があると売れないのがまた日本。労力に対し割に合わないので、手を出す農家さんが少ない。そこで、アグリテックが力を発揮します。テクノロジーを駆使することで、出所がきちんと分かって、オーガニックだけど虫食いもなく、農家もきちんと儲かる野菜を作ることができるのではないかと思います。
――BCGDVは、日本の未来にどう貢献していけると思いますか?
日本が変わるためには、大企業が変わらなければいけません。社会を大きく動かしているのは大企業なので。立派なアセットを持っているのに、従来の慣習に縛られていて活用できていないことも多い。BCGDVができることは、大企業との協業の成功事例をもっと増やしていくことだと思います。大企業と一緒に、イノベーションの種を探していく過程を通じて、日本のタレントを強くする、人材開発の部分でも貢献していけたらと思います。