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前回の記事では、私たちASIOTが描く「現場DXプラットフォーム」のビジョンについてご紹介しました。アナログ設備を含むあらゆる“現場”におけるDXを推進し、人々を定型的な作業から解放することで、よりクリエイティブな仕事に専念できる社会を実現したい。そのためには、単なるソリューション提供だけでなく、産業界全体を変える“インフラ”のようなプラットフォームを築く必要があると考えています。
しかし、それを実現するためには、ハードウェアとソフトウェアをいかに有機的に組み合わせるかが非常に重要です。今回は、その技術的なアプローチや設計思想についてお話しします。ここでご紹介するフレームワークや“ミックスドレイヤーモデル”の考え方は、私が日本の大学院で学んだコンピューターアーキテクチャの知識や、ソニーのアーキテクトだった岡 伸一さん(現・ソニー技術戦略室 室長)、大渕 愉希夫さん(現・ソニーResponsible AI研究者)から直接学んだ知恵に大きく基づいており、あらためてお二人には深く感謝を申し上げます。
もし今回の記事でご紹介する技術的ビジョンに共感いただけましたら、ぜひ私たちASIOTにお声がけください。一緒に産業用IoTの未来を切り拓きましょう。
私たちが考える「現場DXプラットフォーム」について
日本では、少子高齢化による労働力の減少やIT業界全体の人材不足が深刻化しており、多くのプラントや建物施設が老朽化と人員不足の両面で課題を抱えています。ベテラン世代の引退に伴う“技術承継”の難しさも加わり、組み込みエンジニアやOT(オペレーショナルテクノロジー)の技師が、IT領域に踏み込んでアプリケーションを自在に開発するのは容易ではありません。また、ユーザーのニーズが多様化する中、標準化された製品やソリューションが少ないため、PoC(概念実証)止まりで終わってしまうケースも散見されます。
そこで私たちは、「現場DXプラットフォーム」を整備することで、アナログ機器が多く残る現場でもステップバイステップでデジタル化を進められる仕組みをつくりたいと考えました。単発のシステム導入だけではなく、ハードウェアとソフトウェアのフレームワークを包括的に準備して、業種や個々の現場ごとに柔軟に最適化できるようにする。それが私たちASIOTが掲げる、「HWコンパウンドスタートアップ」としてのこだわりです。
組込機器はパソコンと逆のレイヤー構造
私たちASIOTは、いわゆる「ソフトウェアだけ」を提供するSaaS企業ではなく、ハードウェア×ソフトウェアを複合的に提供するところにこそ大きな価値があると考えています。ここで、ハードウェア(コンピューターシステム)の世界には大きく分けて「汎用コンピューター」と「組込機器」の2種類があることを、改めて整理しておきましょう。
- 組込機器(センサーデバイスなど)
カメラや温度計など、特定の目的に特化している機器を指します。用途が比較的固定されている分、その目的を果たすために必要最小限の装置や機能で構成されるのが特徴です。
たとえば、皆さんが日常的に使っている家電製品の中には、じつは多くの組込機器が含まれています。
- デジタルカメラ/ビデオカメラ:動画や写真の撮影機能に特化
- テレビ:放送波の受信や映像の再生・描画に特化
- デジタル温度計:温度計測のみに特化
- 電子レンジ:物を加熱する機能に特化
このように身近に存在する「目的特化型の家電製品」こそが、組込機器の代表的な例です。アプリケーション(機能)はあまり変更されませんが、ハードウェア性能の向上や最適化によって単一機能でも大きな価値を提供できるところが強みです。
- 汎用コンピューター(PCなど)
これに対し、汎用コンピューターは、OSやミドルウェアが標準化されているため、アプリケーション部分を差し替えるだけで多様な機能を実装できます。いわば「HWを抽象化」したうえでソフトウェアを自在に追加・変更できるのが強みで、PCやスマートフォンがその代表的な存在です。
- PC(パーソナルコンピュータ):多種多様な利用シーンを想定し、高性能なハードウェアと幅広いソフトウェアを備えている。ユーザーが必要に応じてアプリケーションを導入し、あらゆる用途に対応可能。
- スマートフォン:OSによりHWを抽象化し、多数のアプリをインストールすることで機能を拡張。
汎用コンピューターは「何にでも使える」ことが前提のため、性能や機能が包括的になりやすい一方、組込機器のように“一つの目的だけ”を徹底的に追求するアプローチとは対照的です。
レイヤー構造が“逆”だからこそ生まれる価値
このように、組込機器は“目的を果たすための必要最小限の装置・機能”で構成されるのに対し、汎用コンピューターは“あらゆる用途を想定して、高性能なハードウェアと抽象化されたソフトウェア層を備える”ものです。いわば「組込機器はパソコンと逆のレイヤー構造」で動いていると言っても過言ではありません。
- 組込機器:ハードウェア側で目的特化の最適化を行い、その上に特化したソフトウェア機能を載せる。
- 汎用コンピューター:ハードウェアを抽象化したうえで、多様なソフトウェアをフレキシブルに差し替える。
ミックスドレイヤーモデル
私たちASIOTが提唱する「ミックスドレイヤーモデル」は、アプリケーション×ハードウェアの両層を素早く進化させられるように設計されたフレームワークです。下図のように、上段にある「Application」と「Hardware」は、機能強化や最適化を加えることで新たな価値を生み出せる部分。一方、下段の「Middleware」は差異化になりにくい領域として標準化し、開発効率や保守性を高めています。
組込機器と汎用コンピューターの特性を融合
- 組込機器の特性(ハードウェア性能の極限活用・目的特化)
カメラやセンサーなど、一つの目的を果たすためにハードウェアを最適化し、低消費電力やリアルタイム性能などを極限まで高める。
- 汎用コンピューターの特性(ソフトウェアの拡張性)
OSやミドルウェアが標準化されており、アプリケーションを差し替えたり、機能を自由に拡張しやすい。
具体的には、下記のような2つのフレームワークを用意することで、トレードオフ(ハードウェア側に寄せるか、アプリケーション側に寄せるか)を自在に調整し、現場の要件に合わせて最適解を導きます。
- アプリケーションフレームワーク
IoTシステムの大半は「データ集約」「可視化」「解析」がコアとなりますが、それをどんなUI/UXで実現するかは業種や利用シーンごとに変わってきます。そこでASIOTでは、共通となるCoreアプリケーション/ミドルウェア層を準備し、その上でノーコードプラットフォームやAPI群を活用することで、多様なUI・業務ロジックを自由に組み替えられるようにしています。
- ハードウェアフレームワーク
組込機器が持つ「特化性」を活かし、かつ汎用コンピューターのように開発や拡張をスピーディーに進めるため、ASIOTではIoT機器の根幹となるHWをフレームワーク化することで、クラウドへの通信量や消費電力を抑えながら高度なデータ処理を行うエッジAIを容易に搭載できるようにします。組込機器の機能拡張(例:センサの追加)も“プラグイン”に近い感覚で行えるようになるため、現場で必要な機能を柔軟にカスタムできます。
これらを巧みに融合し、「素早くアプリケーションを提供できるアプリケーションフレームワーク」と「素早く新しいハードウェアを提供できるハードウェアフレームワーク」の両方を備えているのが、ASIOTのミックスドレイヤーモデルです。
アプリケーションフレームワーク──新しいソフトウェアを素早く提供する仕組み
私たちは、素早く新しいソフトウェアを提供できるために、あらゆる組込み機器(エッジデバイス)の機能を“フィーチャー”という単位に分解しています。たとえば、アナログメーターの読み取り、検針票の出力、異常検知、ワークフロー連携などを必要に応じてプラグインできる設計です。
- ベースフィーチャー + 拡張フィーチャー
- メーター検針から帳票出力、さらには異常検知や通知など、“必要な機能だけ”をテンプレート化してすぐに利用可能
- カスタマイズ性が高いため、企業や現場ごとのニーズに合わせた柔軟な構成が可能
- ノーコード化・コンポーネント化
- 業務アプリ作成のハードルを大きく下げ、「IoT版kintone」のようなビジネスアプリ開発環境を提供
- コーディングの専門知識がなくても、コンポーネントを自由に組み合わせるだけで実用的なアプリを構築できる
ユースケースコンポーネントの事例
- 定型業務のコンポーネント化:日常点検、帳票作成、故障・復旧タスクなど
- 時系列データ分析:しきい値超過時のアラーム、〇〇分平均算出・可視化、Slack通知など
- 電力使用量の集計:拠点ごとに日次で使用量を自動集計し、レポート化
- 故障要因分析:エッジAIによる異常値検知、復旧時の自動通知や履歴管理
このように、ユースケースが複雑であっても、コンポーネントをブロックのように組み合わせるだけで、短期間でソリューションを作り上げることができます。
「PoCで終わるのではなく、実際の現場運用に根付くソリューションを素早く構築する」―― これこそが、ASIOTが目指すアプリケーションフレームワークの大きな価値です。
ハードウェアフレームワーク──新しいハードウェアを素早く提供する仕組み
IoT製品は通常、企画・設計・試作・検証・量産といった多くのフェーズを経る必要があり、すべてを個別開発すると時間もコストもかさみがちです。そこでASIOTでは、共通プラットフォーム層のハードウェアフレームワークを用意し、汎用性の高い“Generic IoT HW”をベースにすることで、新しいデバイスをスピーディーに展開できる環境を整えています。さらに、特徴的なHW(Distinguished Hardware)を提供しやすい設計思想を取り入れることで、ハードウェアの強みを最大限に引き出せるようにしています。
ASIOTが試作している「センサーハブ」は、以下の点で汎用性と拡張性を両立しています。
(1) 共通インターフェースであらゆるセンサーに対応
- 多種多様な産業用センサーをコンバーター経由で取り込み、LTE回線などを利用してクラウドへデータを送信
- 既存の通信環境を活用でき、ネットワーク構築の手間を削減
- 環境センサーや測定センサーだけでなく、カメラセンサーなど高帯域を必要とするデバイスにも対応(100種類以上)
(2) エッジAI搭載モジュールとの連携
- 内蔵AIチップによって、クラウドを介さずともリアルタイムの予兆検知や制御が可能
- エッジAIエンジンを分散処理に活用し、複数のセンサーを組み合わせてASIOTのデータプラットフォーム上でシステムを構築
(3) アプリケーションとの親和性
- デバイスドライバやアプリケーションフレームワークをあらかじめ統合
- センサーデータを取り込むだけでなく、ノーコードツールを用いて素早くアプリを開発可能
- 煩雑な調整が不要なため、導入後すぐに現場での活用を開始できる
結果的に、ユーザーは、積み木を組み立てるような感覚で必要なセンサーを接続し、アナログデータの集約やリアルタイム制御を実現できます。
- 低価格・汎用性の高さにより、開発コストを削減
- 各センサーから得たデータを一元的に管理し、既存のクラウドサービスともスムーズに連携
- IoT導入の初期ハードルを下げ、PoC止まりで終わらずに本格運用へ移行しやすい環境を提供
有意味感を作り出す──エンジニアリングがもたらす社会的インパクト
生成AIやAGIが注目される時代において、人の存在意義(有意味感)を見極めることは、ますます重要になってきています。
HWコンパウンドスタートアップである私たちASIOTは、組込機器と汎用コンピューターの両方の価値を引き出す技術基盤を整えることで、「現場DXプラットフォーム」をステップバイステップで実現しようとしています。これには、単なる技術的優位性を越えた、社会的・人的な意義があると考えています。
- 人材不足・技術承継の問題を緩和
組み込みやOTに詳しいベテラン技術者の不足と、新世代へノウハウを継承できない現状に対し、ハードウェアフレームワーク・アプリケーションフレームワークを整備することで、システム構築のハードルを大幅に下げます。若手技術者や異業種人材でも、効率よく開発・運用に携われる環境を作るのです。
- 地球規模の課題へも貢献
多くのプラントやビルの老朽化が進む中、省エネ・安全管理・生産性向上といった観点でのDXは喫緊の課題です。現場で稼働するアナログ設備をスピーディーにデジタル化し、クラウドやエッジAIを活用することで、エネルギー消費を最適化し、CO2排出量を削減するなど、環境保全にも寄与できます。
- エンジニアが“創造”に集中できる世界
フレームワーク導入により、面倒な基盤づくりやPoC段階での煩雑な作業に長時間を割く必要がなくなります。エンジニアは、本質的な問題解決や革新的なアイデア創出に専念でき、結果としてテクノロジーの進化をより一層加速させることが可能です。
このように、社会全体とエンジニアリングの未来を視野に入れた取り組みは、単なるビジネス上の優位性を追求するだけではなく、人々がやりがいや創造性を存分に発揮できる基盤づくりにつながります。
それこそが、私たちが「HWコンパウンドスタートアップ」として追求する有意味感であり、産業用IoTの新たな可能性を切り拓く鍵だと信じています。
「現場DXプラットフォーム」を一緒に実現する仲間を求めています
今回ご紹介したミックスドレイヤーモデルやハードウェア/アプリケーションのフレームワークは、私たちASIOTが「現場DXプラットフォーム」を実現するうえで欠かせない技術的基盤です。これは、私が留学時代の教授やソニーのアーキテクトの先輩方から学んだコンピューターアーキテクチャの思想をベースに、長年培ってきたIoT開発の知見を組み合わせることで生まれました。
しかし、技術やアイデアだけでは足りません。実際にプラントや商業施設、工場で使われるソリューションを提供し、現場の人々の課題を解決するには、多様な人材の力が必要です。もし、この「現場DXプラットフォーム」構想に共感し、ハードウェアとソフトウェアの融合やエッジAIの活用にワクワクするという方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にご連絡ください。
私たちASIOTは、ハードウェア×ソフトウェアのコンパウンド・スタートアップとして、「産業用IoTの未来を切り拓く」という目標を本気で追いかけています。次世代の製造業・インフラ管理・ビルメンテナンス・エネルギー制御など、多岐にわたる領域で一緒にイノベーションを起こしていきましょう。
最後になりましたが、あらためて、ソニーの岡さん・大渕さん、そして大学院で指導してくださった教授の皆さまに深い感謝を申し上げます。彼らから学んだアーキテクチャ思想があるからこそ、私たちは今の事業を前に進めることができています。これからも新しい挑戦を重ね、技術とビジネスの両面で産業界に貢献していきたいと思います。
もしこの物語に共感していただけましたら、ぜひ一緒に歩んでいきましょう。産業用IoTの未来は、ここから大きく変わると信じています。