20代後半。
SNSでは「30手前にして、やっと自分を愛せるようになってきた」なんて言葉が流れてくる。
だけど実際の私はーーー
誕生日旅行で醤油を顔面に浴びていた。
友人と一緒に行った私のバースデー熱海旅行。
その日のメインは豪華な海鮮コース!そして主役はアタシ!
美味しそうなお魚さんたちを目の前にヘラヘラしていた私は、友人と「学生のとき教科書によだれの湖作ったよねー!」なんて話をしながら食事を楽しんでいた。
そんな食事の最中、友人が醤油を取って欲しそうにしていたので、
私はイタズラ心(シラフ)で「取ったどーー!^^」とトロフィーを手にしたような格好で醤油の瓶を掲げてみせた。
その時だった。
バッシャーン!!!!
醤油瓶のフタが『カパッ』と外れ、その瞬間に水しぶきと化した醤油が私の顔面へ。
フタだけを握っていた私は、そのフタが本体と離れる仕様だということに全く気づいていなかった。
豪華な海鮮料理に浮かれた失態。
自分の不注意とイタさに、部屋中が気まずい空気に包まれーーー
「ハッピバースデートゥーユ〜〜〜♪」
私:「…!?」
ケーキを持った女将さんが美声を響かせながら部屋に入ってきた。
私:「…!?」
2回目の「ハッピーバースデー」を口づさみかけた女将さんだったが、
目の前にいる醤油女と目が合い顔が引き攣る。
私:「しゅ、しゅみまシェん…。お、お醤油をこばしてしまっえ」
驚きと動揺によって謝罪の言葉が噛み噛みになってしまった。
そんな私に女将さんは優しく「拭くものを持ってくるわね!」と部屋を出る。女神か。
自分の浮ついた心と不注意によって起こった事件。
せっかく友人がナイショで用意してくれたバースデーサプライズも、この醤油女(主役)のせいで終焉するとは。
『たぶん、これが「大人の誕生日」ってやつなんだろうな』
この状況下の中、醤油にまみれた女はこんな決めゼリフを唱える。
誰か……平手打ちしてくれ。
R.アライ