小さな教室から、Unity教材を全国100教室へ届けるまで
株式会社エーアスクール代表取締役の中川裕樹です。
私たちは、京都府長岡京市でパソコン・プログラミング教室を運営しながら、中高生向けUnityプログラミング教材「ユニプロ」を開発し、全国の教室や学校へ提供しています。
ユニプロは、最初から全国展開を目指し、大きな予算や開発チームを組んでつくった教材ではありません。
始まりは、地域の小さな教室に通う生徒たちの、
「もっと本格的なゲームをつくりたい」
という声でした。
そこから試行錯誤を重ね、約3年で全国100教室以上に導入いただくまでになりました。
今回は、教材をつくった後、どのように教室の外へ届け、どのような課題にぶつかりながら育ててきたのかをお話しします。
すべては、直営教室の生徒から始まった
2017年、京都府長岡京市でパソコン教室を開校しました。
当初は大人向けのパソコンレッスンを中心に運営していましたが、次第に小学生向けのプログラミング教育にも取り組むようになりました。
Scratchやロボット教材、ゲーム制作などを通じて、子どもたちは楽しみながらプログラミングを学んでいきました。
開校当初に小学生だった生徒たちも、年月とともに中学生、高校生へと成長します。
すると、少しずつこんな声が増えてきました。
「もっと本格的なゲームをつくりたい」
「文字でプログラムを書いてみたい」
「3Dゲームにも挑戦してみたい」
そこで始めたのが、ゲーム開発エンジン「Unity」とプログラミング言語C#を使ったレッスンです。
大人向け教材では、中高生には難しかった
Unityを使えば、2Dや3Dのゲームを制作しながら、本格的なプログラミングを学ぶことができます。
ゲームが好きな生徒にとって、Unityは非常に魅力的な学習環境でした。
しかし、当時市販されていたUnity教材の多くは、大人やエンジニアを目指す人向けにつくられていました。
専門用語が多く、説明の進み方も速い。
一つの操作につまずくと、その後の内容が分からなくなる。
プログラムを入力できても、なぜそのコードを書くのかまでは理解しにくい。
中高生が自分一人で進めるには、かなり難しい内容でした。
そのため、講師が生徒の横につき、一つひとつ説明しながらレッスンを進めていました。
講師の負担が、一部の人に集中した
UnityやC#を深く教えるためには、講師側にも一定以上のプログラミング経験が必要です。
エラーが出たときに原因を読み解く。
生徒のアイデアを実現する方法を考える。
教材には載っていない改造や質問にも対応する。
こうした指導は、誰でもすぐにできるものではありませんでした。
結果として、私や一部のプログラミング経験が豊富な講師に、指導の負担が集中するようになりました。
学びたい生徒はいる。
しかし、教えられる人が限られている。
このままでは、Unityを学べる生徒を増やすことができない。
また、生徒への説明に多くの時間を使うため、保護者への報告、教材改善、イベント企画、集客など、教室運営に必要な仕事へ十分な時間を割くことも難しくなっていました。
子どもが自分のペースで学べる教材をつくる
そこで考えたのが、子どもが動画を見ながら、自分のペースで学び進められる教材でした。
画面上の操作を、一つずつ丁寧に説明する。
プログラムをただ入力するのではなく、何のために書くのかを伝える。
分からないところは、何度でも見直せる。
基本的な説明は教材に任せ、講師は生徒が本当に困っているところや、作品づくりの相談に集中する。
そんなレッスンを目指して、動画教材の制作を始めました。
最初から完成度の高い教材ができたわけではありません。
実際に直営教室の生徒に使ってもらい、
「ここは説明が速すぎる」
「この操作で迷う」
「このプログラムの意味が分からない」
といった反応を見ながら、何度もつくり直しました。
教材をつくるというより、目の前の生徒と一緒に育てていった感覚に近いと思います。
「ほかの教室でも使えないか」
直営教室で教材を使ううちに、講師がすべてを一から説明する必要が減り、生徒も自分のペースで学べるようになってきました。
その結果、講師は、
生徒のアイデアを聞くこと。
つまずいたときに一緒に考えること。
作品をさらに発展させること。
といった、人にしかできないサポートへ時間を使えるようになりました。
同時に、教室運営側にも、保護者への報告や教材改善、新しい講座の企画などに取り組む余裕が生まれました。
この仕組みは、同じように本格的なプログラミング指導に悩んでいる、ほかの教室にも役立つのではないか。
そう考え、外部のプログラミング教室への提供を始めました。
最初の一歩は、小冊子を送ることから
外部の教室へ提供しようと決めたものの、最初から販売ルートがあったわけではありません。
まず、教材の内容や特徴をまとめた小冊子をつくりました。
そして、プログラミング教室の検索サイトで全国の教室を一つずつ調べ、案内のDMを送りました。
もちろん、すべての教室に歓迎されたわけではありません。
「勝手に送らないでほしい」
と、厳しい言葉をいただくこともありました。
一方で、大多数の方からは、
「こんな教材があることを知らなかった」
「紹介してくれてありがとう」
「中高生向けの教材を探していた」
といった反応をいただきました。
その言葉から、私たちの教室だけでなく、全国にも同じような悩みを抱えている教室があることを実感しました。
その後は、コエテコが主催するセミナーや講演、勉強会、導入教室からの紹介などを通じて、少しずつ知っていただく機会が増えていきました。
最初は、小冊子を一件ずつ届けるところから始まった取り組みでした。
それが、人から人へ、教室から教室へとつながり、少しずつ全国へ広がっていきました。
最初から順調だったわけではない
教材をつくることと、ほかの教室で使ってもらうことは、まったく別の仕事でした。
直営教室では、何か問題が起きれば、その場で生徒の画面を確認できます。
しかし、全国の導入教室では、使用しているパソコンやUnityの設定、講師の経験、生徒の進め方もそれぞれ異なります。
私たちの教室では問題なく動くのに、別の教室ではエラーが出る。
動画を見れば分かると思っていた部分で、生徒がつまずく。
導入していただいても、講師の方が忙しく、なかなか活用が進まない。
教材の内容以前に、教室内でどのように運用すればよいか分からない。
さまざまな課題が出てきました。
教材を提供するだけでは、教室で本当に使ってもらうことはできませんでした。
導入教室の声をもとに、教材の形を変えていった
そこで、導入教室の方々から話を聞き、教材とサポートの両方を見直していきました。
動画だけでは理解が浅くなりやすいという声から、テキストや確認問題を追加しました。
完成したゲームをつくるだけでは、その後の応用につながりにくいという声から、ゲームの構成やプログラムの関係を整理する設計書を導入しました。
講師がどこまで教えればよいか分からないという声から、指導方法やよくあるエラーへの対応をまとめました。
より上級の学びへ進みたいという声から、基礎だけでなく、段階的に学べるコース構成へ広げました。
また、教材の利用方法について、メールやオンラインで相談を受け、各教室の運営方法に合わせた進め方も一緒に考えてきました。
直営教室の生徒の声だけでなく、全国の導入教室、講師、生徒の声が、現在のユニプロをつくっています。
事業の成長と同時に、体制づくりにも向き合った
教材が全国へ広がり始めた頃、会社の中は決して順調なことばかりではありませんでした。
私自身が健康上の問題を抱え、思うように働けない時期がありました。
教材開発や営業、導入教室へのサポートを進めたいと思っても、一日に動ける時間が限られ、計画どおりに進まない日々が続きました。
また、小さな組織だからこそ、メンバーの入れ替わりによって、運営体制を見直さなければならないこともありました。
それまで自分や一部のスタッフに頼っていた業務を整理し、教材やサポートの仕組みを見直す。
できることを周囲に任せ、誰か一人に依存しすぎない事業へ変えていく必要がありました。
順調なことばかりではありませんでしたが、スタッフや導入教室の皆様に支えられ、教材の提供を止めることなく続けてきました。
この経験から、良い教材をつくるだけでなく、働く人が支え合いながら、無理なく学びを届け続けられる組織をつくることの大切さを学びました。
現在も、まだ十分な体制が整ったとは考えていません。
だからこそ、教材や教室運営を特定の誰かだけに頼るのではなく、チームで支え、改善を続けられる会社へ育てていきたいと考えています。
使われなかった教室、続かなかった教室もある
もちろん、導入いただいたすべての教室で、教材が順調に活用されたわけではありません。
契約していただいても、生徒募集がうまくいかず、Unity講座を始められなかった教室もあります。
担当講師が変わり、運用が止まってしまった教室もあります。
教材の難易度や指導方法が合わず、利用を終了された教室もあります。
私たち自身のサポートが十分でなかったケースもあったと思います。
「導入数を増やせば、それで成功」とは限りません。
実際に教室で使われ、生徒が学び、作品を完成させ、講師も無理なく指導できる。
そこまで実現して、初めて教材として意味があると考えています。
そのため現在は、導入教室数だけでなく、
実際に生徒が学習を始められたか。
どこまで進められているか。
講師が困っていないか。
教材を使った結果、どのような作品が生まれたか。
といった部分を、より大切にするようになりました。
約3年で、全国100教室以上へ
試行錯誤を続ける中で、ユニプロは全国のプログラミング教室や学習塾、学校などへ少しずつ広がっていきました。
広告や営業活動だけで増えたわけではありません。
導入教室からの紹介。
セミナーや勉強会で知っていただいた方。
実際に教材を使った生徒の作品。
教室運営者同士のつながり。
一つひとつのご縁が積み重なり、展開開始から約3年で、全国100教室以上に導入いただくことができました。
京都府長岡京市の一つの教室から始まった教材が、地域を越えて、多くの子どもたちに使われるようになったことは、素直にうれしく思います。
一方で、100教室という数字はゴールではありません。
ようやく、教材を全国へ届けるためのスタート地点に立てたのだと考えています。
教材は、完成した商品ではなく、育て続けるもの
プログラミングの世界は、変化の速い分野です。
Unityのバージョンも変わります。
開発環境も変わります。
AIを活用した学習や制作方法も、急速に広がっています。
子どもたちが興味を持つゲームやサービスも変わっていきます。
そのため、一度教材をつくって終わりにはできません。
現在も、直営教室や導入教室の声を聞きながら、教材の改善、新しいコースの開発、学習環境の見直しを続けています。
また、教材を学ぶだけで終わるのではなく、子どもたちが自分の作品を発表し、誰かに見てもらえる機会も増やしたいと考えています。
コンテストへの挑戦。
資格取得。
作品発表会。
ほかの教室の生徒との交流。
自分でつくったものを誰かに見てもらい、評価や感想を受け取る経験は、次の挑戦への大きな力になります。
AIが広がる時代だからこそ、つくる力を育てたい
これからは、AIを使えば、プログラムや画像、文章を短時間でつくれる場面がさらに増えていきます。
だからこそ、単にコードを暗記するだけではなく、
何をつくりたいのか。
誰のどんな問題を解決したいのか。
AIがつくったものが本当に正しいのか。
うまくいかないときに、どこを確認すればよいのか。
といった、考える力が重要になると考えています。
プログラミングは、問題を小さく分け、原因を考え、試し、改善する学びです。
自分のアイデアを形にし、うまくいかなければ直し、最後に動かす。
その過程には、これからの社会で必要になる力が詰まっています。
私たちは、AIを避けるのではなく、AIも活用しながら、子どもたちが自分で考え、つくり、判断できる教材へ進化させていきたいと考えています。
次は「導入された教材」から「成果が生まれる教材」へ
全国100教室以上に導入いただいたことは、私たちにとって大きな節目でした。
しかし、これから目指したいのは、導入数をさらに増やすことだけではありません。
生徒が途中で諦めず、作品を完成させられること。
講師がプログラミングの専門家でなくても、生徒の挑戦を支えられること。
教室が教材を活用し、継続して講座を運営できること。
そして、学んだ子どもたちが、自分の作品や成長に自信を持てること。
そうした成果が生まれる教材と仕組みを、つくっていきたいと考えています。
私たちの教材は、小さな教室の生徒の声から始まりました。
これからも、目の前の生徒や講師の声を聞き、現場で試し、改善しながら育て続けていきます。
小さな現場から、全国の学びを変えていく
エーアスクールは、まだ小さな会社です。
教材開発、教室運営、導入教室のサポート、営業、イベント企画など、取り組みたいことに対して、まだ人も時間も十分ではありません。
だからこそ、一人ひとりの意見や行動が、教材や事業の成長へ直接つながります。
子どもたちの成長に関わりたい方。
教育の現場から教材や仕組みをつくりたい方。
教室運営や事業づくりを学びたい方。
将来、自分の教室や教育事業を立ち上げたい方。
私たちと一緒に、小さな教室から始まった学びを、さらに多くの子どもたちへ届けていきませんか。
全国100教室は、通過点です。
次は、教材を届けた先で、より多くの「できた!」が生まれる未来をつくっていきたいと考えています。