sakai kitchenでの出会いがすべての始まりだった
2023年、代官山の蔦屋書店で行われたsakai kitchen(堺キッチン)。これは、堺市が推進する伝統産業の魅力発信プロジェクトで、特に包丁文化を一般の方にも広める目的で開催されているものです。私たち高橋楠も、これまで第1回(三越銀座)、第2回(代官山蔦屋書店)、そして第4回と3度にわたって応募し、選定されています。
イベントでは、包丁の展示・販売はもちろん、研ぎ直しサービスも提供しており、「sen(閃)」ブランドのプロモーションにも力を入れています。そんな中、2023年の代官山イベントでの出来事が、今も記憶に残っています。
「ただ者じゃない」と感じたお客様の正体は…
ある日、帽子に眼鏡にマスクという姿でふらりと訪れた女性が「包丁を2本、研いでほしい」と。とても腰の低い方で、包丁の研ぎ方や過去のご経験についても丁寧に質問をしてくださり、やり取りの中で「この方、一般の方かな」と感じていました。
職業柄なのか、聞き方も話し方もとても自然でスマート。後から知ったのですが、なんとその方は某有名なキャスターさんだったのです。
名前が彫られた包丁や、受付に書かれた名字から後に気づいたスタッフが教えてくれました。研ぎ終えた後には、お声がけした際に「よければご説明しますよ」と伝えたところ、なんと一刀斎虎徹の包丁を1本ご購入くださったのです。3万円ほどの高級包丁。後日、その包丁が某テレビ番組で使われているのを、従業員がたまたま観ていて発覚。
喜びが次のエネルギーになる
番組で使ってくださっていたことに本当に驚きと感動があり、思わずお礼の手紙を送ったところ、丁寧なお返事のハガキが。ご本人から、「あれから愛用しています。番組でも使わせていただきました」との言葉が添えられていたのです。
さらに後日、弊社の違うブランドの包丁を番組で使われていたのを見かけ、「また探して買ってくださったのかもしれない」と感じた私たちは、再び感謝の手紙を。「もうお返事は結構です。応援しています」とだけ添えて送りました。
やがて4回目の放送あたりで包丁が変わっていることに気づき、「そろそろ研ぎ直しかな?」と感じながらも、ふとした会話で「私、たまに大阪行くんですよ。また行ってもいいですか?」と彼女が仰っていたのを思い出しました。調べてみると、なんと大阪のご出身で、まさに関西人だったのです。
商売は、良いことばかりではありません。けれど、こういう予期せぬ素敵な出来事に出会えるのが、この仕事の醍醐味でもあります。
有名人が使ってくれるから嬉しいのではなく、“心ある方”が、“本当に使ってくれている”ことが嬉しい。
だから、また頑張ろうと思える。そんな一日が、確かにありました。