日本の刃物文化を支え続けてきた堺の地から、職人たちの手仕事で生み出される一本の包丁には、数百年の技術と知恵が宿ります。
今回は、長年続く堺打刃物の製造工程にスポットを当て、その魅力について語っていただきました。
歴史を紡ぐ「包丁」という奥深い世界を、ぜひ覗いてみませんか。
――まずは、「包丁」の種類と各製造工程について詳しく教えてください!
包丁づくりには大きく分けて、「和包丁」と「洋包丁」それぞれ2通りの製法があります。
和包丁は、鋼の棒を高温で赤熱させ、職人が何度もベルトハンマーで叩いて延ばして形を作る、まさに“手仕事”の伝統製法。一本ずつ職人の勘と技術で仕上げるため、切れ味や耐久性に奥深い個性が宿ります。和包丁は主に、大阪の堺市と新潟の三条市、高知県の土佐市で製造されています。特徴として、新潟の三条市は一貫製造されており、堺と土佐は分業制です。堺では昔から和包丁づくりが盛んで、私たち高橋楠もその伝統製法を守りながら、未来へつなぐべく日々鍛錬しています。
洋包丁は、鉄板をプレス機で型抜きして成形し、熱処理と研ぎを経て柄をつける量産モデル。岐阜県の関市や福井の越前市で生産され、当社のような問屋が名入れや小売店への卸を担っています。
――では、高橋楠のメインとなる「和包丁」の製造工程について詳しく教えていただけますか?
和包丁づくりには大きく3つのステップがあります。
・鍛治
鋼と鉄を重ねて炉で赤熱し、一本棒を何度もベルトハンマーで叩き伸ばす工程です。ここで包丁の「骨格」が生まれ、鍛冶師の経験と腕力、精密さが試されます。その後、刃となる長さに切り出して再び成形し、1000℃の高温の炉で熱し、冷却の工程を踏みます。十数以上の工程があり、非常に専門性の求められる工程となります。
・刃付
荒研ぎ→平研ぎ→本研ぎ→バフ当て→木砥当て(松の木を使用した砥石)→仕上げ研ぎの順に砥石を替えながら研ぎ上げ、刃先の歪みを何度も取り除いていきます。特に木砥当ては堺刃物ならではで、気品のある仕上げを実現します。こうして、食材を滑らかに切る“切れ味の芸術”が完成します。センスの求められる難しい工程になりますが、非常に高度な専門技術が身につき、稀少な高度な技術はトップの料理人からの需要がかなりあります。
・柄付
木製の柄を取り付け、手彫りで名前を刻印します。職人の感性が光る、包丁の“顔”を仕上げる工程です
以上が堺打刃物の製造工程になります。
堺では、これらの工程が分業制によって製造されています。分業制のメリットは、効率性の追求によりセクション分けすることで量産を実現できる点にあります。
一方、高橋楠ではこの全工程の製造を同じ工場で担える体制を整えました。製造工程をすべて一貫して担うことで、一本一本の品質向上を実現。職人同士が互いの工程を理解することでき、製造全体や職人間での技術向上に繋がっています。
また、問題発生時には速やかに原因を共有することができ、改善策をすぐに実装できるため、製品レベルを全体で引き上げることができます。一人の職人が一日に作れるのは十数本が限界ですが、高橋楠にはこの一貫体制があるからこそ、一本一本の刃に魂を込めることができ、堺包丁の品質と誇りを世界へ、そして次世代へ確実につなげていけると信じています。
――最後に、求職者の皆様にメッセージをおねがいします!
包丁づくりを取り巻く環境は、職人不足や品質維持の難しさなど、決して楽ではありません。しかし、私たち高橋楠は、伝統の「分業制」を見直し、鍛冶から仕上げまでを一貫して担う工場体制を整備しました。また、職人技をデータで支えるIT導入により、品質の安定化と若手育成を同時に実現しようとしています。
これまで伝統の包丁づくりでは、“職人の勘と経験” に長年支えられてきました。でもそれだけでは、この先の未来に専門技術を継承していくには難しいという懸念もあります。職人の育成や、お客様のニーズにできる限りお応えする姿勢を実現していくためには、ITを始めとした先端技術を取り入れた仕組みづくりも必須だと捉えています。
この取り組みが生み出すのは、一本一本に宿る「堺包丁」の確か好な切れ味、多様化するお客様ニーズへの迅速な対応、職人が成長し続ける好循環です。
“職人の高度な技術”を“次世代へと紡いでいくため、私たちは今後も伝統と革新を両輪で進めるものづくりを追求していきます。
――高橋代表、ありがとうございました。
伝統と革新が交差するこの現場で、あなた自身も新しいものづくりの価値を生み出しませんか?
ものづくりに本気で挑みたい方、ぜひ私たちと一緒に、包丁づくりの未来を切り拓いていきましょう。