創業100年を超える包丁製造を手掛ける、株式会社高橋楠。
今回は、刃付け師として働く現役職人のAさんに、仕事内容や会社の様子についてお話を伺いました!
…まずは簡単なご経歴と、高橋楠に入社を決めた理由について教えてください。
出身は熊本なのですが、高校卒業と同時に大阪に出てきてジュエリー制作の専門学校に進みました。金属に模様や文字を彫ったり、他金属をはめ込んだりする彫金について学びを深めたのち、もともと関心の強かった刃物職人という道を探る中で高橋楠の存在を知りました。
私の祖父は料理人で、大阪で修行を積んだのちに地元で店を開いた人間です。そんな祖父は日常生活でいつも包丁を大切にしながら過ごしていました。寝る時には枕元に置くほど肌身離さず大事に扱っていた姿が、今でも印象的ですね。幼少の頃からそんな祖父の姿に影響を受け「1つの道具にそれだけの愛情をかけてくれる人がいるんだ……」「この一本がいいんだ!みたいな人にこそ、自分の手で良いものを作りたいな……」と、次第にそんな思いが芽生え、今の道を選び進みました。
就活時には複数の企業候補があったのですが、包丁作りの工程を一気通貫でやりきるという高橋楠のスタンスに惹かれ、「一つの会社で良いものを作り上げる」という信念に共感して入社を決めました。また、他社でもお話も聞かせてもらった際には「刃付け師といえば男性職人の仕事」というイメージがまだまだ根強いなか、性別関係なく職人を目指す理由を真摯に受け取ってくれた高橋楠の在り方には、この業界でも先進的に感じました。
実際に、当社の社長は時代に合ったものを取り入れる考えを大切にしています。古き良き価値はきちんと次世代に残しつつ、新たな技術や考え方は積極的に取り入れていこうというスタンス。その点は業界の中でも独自性のある当社の魅力であり、強みでもあると感じます!
…刃付け師とはどういうお仕事なのでしょうか。Aさんの業務内容を教えてください。
もともと専門学校で学んできたジュエリー制作と包丁製作は、実は類似する部分が多くあります。「宝石」と聞けば煌びやかなイメージが強いのですが、「金属を叩いて伸ばす」「磨いて削る」など、金属の知識や種類の違いはあれ、素材によって磨き方が違えば光り方も違う部分においては共通点が多いのです。
包丁作りでいえば、鍛冶師が高温の火で打ち叩いた包丁の原型を、刃物として切れる状態にまで研ぎ上げるのが、私が担う「刃付け師」という職人の役割です。1点1点異なる仕様をもとに、切れ味を追求しながらひたすら研いでいくのが主な仕事となります。
包丁といっても、出刃包丁や柳刃包丁など多様な種類があり、重量の軽さや重さで求められる技術も大きく異なります。そのため「難しさ」の壁にぶち当たることももちろん多々あります。職人として体力的な部分を求められるシーンもありますが、先輩にアドバイスをいただきながら、奥深い職人技術を一つひとつ丁寧に習得していく日々ですね。
…具体的に、一日の仕事スケジュールはどうでしょうか。
毎日黙々と刃物を研ぐ日々です。目標は1日5本なのですが、実際には3〜4本の仕上がりなのが現状ですね。1本を仕上げるにはおよそ2〜3時間をかけて制作しています。
つい集中して作業場にこもりっきりになってしまいがちなので、時々社長や他の職人とコミュニケーションを交わしたり、ストレッチをして息抜きをしたりしながら、刃を研ぐ技術の追求に向き合っています。
近年は海外からの需要も多く、有難いことに多くの注文が届いています。興味深いのは、海外の方は性能よりも「見た目」を重視される方が多く、また「自分のお気に入りを選びたい!」という方が多い印象です。私たち職人も、ちょっとしたこだわり部分などのオリジナルリクエストにも出来る限りお応えするようにしています。
…やりがいや達成感を得られる瞬間はありますか?
まだまだ試行錯誤中ですが、やはり完成後に切れ味の素晴らしさを確認できたときには大きなやりがいを感じます。綺麗に切れる瞬間をこの目で確認できたときには、その精度の良さに自分の頑張りを痛感できて嬉しさが込み上げます。
自分の研いだ刃は、料理人が使用する小さな砥石でまず研いでみて、切れ味の確認を行います。引っかかり具合や切れ度合いの強度を確認しながら微調整を繰り返し、少しずつ完成に仕上げていく工程には、特に集中力を要しますよ。刃先に光を当てながら目視で確認しつつ、手の感覚などの五感を研ぎ澄ましながら取り組む日々です。
…今後のビジョンについて聞かせてください!
堺一の刃物職人になりたい、誰にも負けない包丁を研げるようになりたいです。具体的には「どんな包丁でも研げる職人」になることですね。「これが自分の研ぐ包丁だ!」というスタンスよりも、お客様や料理人さんから「こういう包丁が欲しい」とご要望を受けた際に、さらりとお応えできる研ぎ師になれるとかっこいいなと憧れています。
堺に住みだして現在5年目。包丁専門店がずらりと並ぶ街並みなどもあり、休日にはリフレッシュしながら専門店を見て周る日もあります。幼少の頃から強い興味を持っていた包丁職人に実際になってみると、見え方さえも大きく変わりましたね。
仕事にする前までは、刃の光や曲線の美しさなど、見た目にしか目のいかなかった部分が、今となっては「この包丁はどう製作されているのか、この刃を研いだ人はどんな気持ちでこの刃を研いだのだろう」という新たな視点を持つようになりました。
刃物業界は奥深く、プロフェッショナルな技術が求められる世界です。自分が納得できる理想の研ぎ師になるには、40年以上かかるのではないでしょうか。自分がおばぁちゃんになった頃に「やっと、できてきたな……」と思えるのかもしれませんね。
…刃物職人という職業は、どんな方に合うのでしょう。
やはりものづくりが好きな方、何かを最後まで作り上げることが好きな方にはぴったりなのではないでしょうか。あとは、好きなことには集中してとことんのめり込める方。覚悟を持って、自分の“好き”を追求するからこそ取り組める仕事なのではと思います。
技術的な面で言えば、立体を描ける人ですかね。目に見えている表面だけでなく表裏やその厚みまでを製作しながら考えられるか、一部を研ぐことで全体像がどうなるのか、立体で全体像を捉える技術は、求められるスキルの一つだと思います。
…最後に、求職者へのメッセージをお願いします。
物事を追求したい方にはぴったりな環境だと思います!覚悟のある方、夢を追いかけたい方、やりたいことや実現したい夢を明確にお持ちの方であれば、ピッタリの社風だと思います。高橋楠は少人数のアットホームな会社。1人ひとり役割は違いますが、みんなが仲間です。力を合わせて頑張ろうと、日々コミュニケーションを取りながら仕事に取り組んでいますよ、ぜひ一緒に仲間になってくださいね。
Aさん、ありがとうございました!