さまざまな可能性を秘めているメタバース。ゲームやイベントなどエンターテインメントの世界において活用されている印象のあるメタバースですが、今はビジネスの世界でもメタバースは注目を集めています。
そこで今回は、メタバース×ビジネスの関係性にスポットを当てて解説。実際の事例にも目を通してみましょう。
仮想空間の定義とその市場規模について
まずは、メタバース(仮想空間)の基本的なところから確認をしていきましょう。
メタバースの定義
メタバースという言葉が初めて登場したのは、1992年にSF作家であるニール・スティーヴンスンが未来を思い描いて書いた小説「スノウ・クラッシュ」でのこと。超越したという意味を持つmetaと、宇宙という意味を持つuniverseを組み合わせてできた造語です。日本語では仮想空間という意味を持つ言葉として、広く使われるようになりました。
メタバースという言葉の定義ですが、実は定義はその言葉が使われる媒体などによって異
なります。ただ、共通認識として「7つの条件」が設けられています。
- 永続的である
- 同時性・ライブ性
- 同時に参加できるユーザーに上限を設けず、それぞれ存在感を持つ
- 経済が完全に機能する
- デジタルと実世界、パブリックとプライベート、オープンプラットフォームとクローズドプラットフォーム、それぞれ両方にまたがる体験
- 前例のない相互運用性の提供
- 数多くの個人や企業が創造・運営する
メタバースに対する上記の7つの条件は、投資家であるマシュー・ボールが自身のブログ内で語ったものです。メタバースをどの分野で活用する場合も上記の7つの条件が重視されることから、今はこの7つの条件がメタバースの定義として広く認知されています。
メタバースの市場規模は?
世界各国で新型コロナウイルスが流行したことにより、人が集まることに対して制約が生まれたり、セミナーやイベントの開催が難しくなったりと社会の構造は大きく変化。その影響を受け、それまで以上にメタバースに対しても注目が集まるようになりました。メタバースに対する期待の高まりは、世界の大手企業にも大きな波をもたらすことになったのです。
Facebook社はメタバースに対して本腰を入れ始めたことから、2021年10月に社名を「Meta」へと変更。このことは、世界各国の企業にとってメタバースを意識するきっかけとなりました。
メタバースに参入する企業が続々と増え始めたことで、市場規模も拡大。カナダにある企業経営コンサルタント会社「エマージェン・リサーチ」の調査によると、2020年度のメタバースの市場価値は476.9億ドル(約5兆5000億円)。アメリカの総合情報サービス会社「ブルームバーグ」が実施したL.P.の試算では、ライブやソーシャルメディアといった周辺の業界も含めると、メタバースの市場規模は2020年時点で4787億ドル(約55兆円)にも上ると言われています。2024年には7833億ドル(約90兆円)に到達すると言われており、一年で13.1%もの成長率まで伸びると考えられているのです。
このような市場規模の拡大から、メタバース業界に対する投資額も増加の一途を辿っており、投資家たちも注目の業界であると目を光らせています。
仮想空間を活用したビジネスに企業が参入するメリットとは
今や、ビジネスのさまざまな場面において活用されているメタバース。企業がメタバースに参入するメリットとは、どのようなものなのでしょうか。
自社商品・サービスの提供場所が増える
メタバース内には、実店舗と同じように自社の商品やサービスを提供するための店舗を設けることができます。現実世界において実店舗を出店するとなると、コスト面だけでなく物理的な問題も解決していかなければなりません。
一方メタバース内に店舗を構える場合、場所や空間、人数といった物理的な制約は一切なし。店舗を構えるだけでなく、メタバースを自社のプラットフォームとして提供することも可能となります。
メタバースに参入することで、自社商品やサービスを提供する場所が増えることから、新たなビジネスチャンスのきっかけを生み出すことができるのです。
ビジネスの形を変えることができる
メタバースは、感染症の蔓延や自然災害など、現実世界で不測の事態が起きた場合もそのメリットが発揮されます。コロナ禍で急成長を遂げたのが、メタバースの長所を存分に生かしたメタバースオフィス。VRゴーグルを装着して自身のアバターをメタバースオフィス内に入室させるだけで、まるで相手のアバターが目の前にいるかのようなリアルさを感じることができます。
ZOOMなどのツールを活用したビデオ会議では、相手の温度をリアルに感じ取ることが難しく、うまくコミュニケーションが取れないことも珍しくありませんでした。一方メタバースオフィスでは、VRゴーグルさえあれば身振り手振りで相手とコミュニケーションを取ることが可能。
また、現実世界のオフィスに出社できないような状況でも普段通りを維持できることから、メタバースオフィスに対する需要は高まっています。メタバースオフィスに参入する企業が増えてきたことから、マーケットも拡大すると予測が立てられており、これまでのビジネスの形を自社が思い描く形へと変えていくことができるでしょう。
メタバースを活用したビジネスの事例
ここから、メタバースを活用した実際のビジネスの事例を見ていきましょう。
メタバース×観光事業
新型コロナウイルス蔓延によって、大打撃を受けた観光業。自由に旅行に行くことも難しくなった時期に、メタバースに目をつけてビジネスに活用した事例があります。
沖縄県は、日本を代表する観光地の一つ。しかし、リアルで旅行ができなくなったことから、業績は悪化の一途を辿っていました。そこで、沖縄県の旅行・運輸各社は、バーチャル旅行への投資をスタート。
コロナ禍という言葉がすっかり定着してしまった今、「オンラインツアー」といった新たな旅行の形を生み出し、業界を立て直すきっかけの一つにしています。
メタバース×小売業
小売業においても、メタバースをビジネスに活用した事例が報告されています。小売業界では、メタバースとECを組み合わせた「メタバースEC」や「バーチャルショップ」の存在が際立ちはじめました。
3DCGの技術を用いたメタバースECや、実店舗とECの中間という位置づけにあるバーチャルショップは、コロナ禍の中で手繰り寄せた小売業にとっての新たなビジネスチャンス。80社以上が参加したバーチャルマーケットや渋谷区公認のバーチャル渋谷など、さまざまな企業によるメタバースEC・バーチャルショップが実施されています。
小売業にとってメタバースは、新規顧客の獲得や店舗出店にかかるコストの削減、実店舗以上の自社ブランドの表現など、メリットが多いもの。今後また消費者の外出控えの波がやってきたとしても、メタバースをうまく活用していればその波を乗り越えられるのかもしれません。
メタバースの今後の課題と展望
さまざまな業界において活用されているメタバースですが、まだまだ課題があるのも事実。メタバースの課題としてまず挙げられるのは、「法整備」です。
メタバースはまだまだ新しい分野であることから、法整備が追いついていないのが現実。今ある法律はあくまでもリアルの世界に対しての法律であり、バーチャル世界におけるビジネスは想定していません。
物の所有権に関しても物理的な物の所有しか想定していないため、ユーザーがメタバース内で取得したアイテムをアクシデントやトラブルで消失した場合、運営元に返還するよう依頼することすらも難しいのが現実です。2021年には「バーチャルコンソーシアム」というメタバース内の決まりを作る団体が立ち上げられましたが、この団体によって作られるのはあくまでもガイドライン。メタバース内でトラブルが発生した場合はこのガイドラインに則ってやり取りがなされますが、「法律で裁く」という次元までは到達していないのです。
また、メタバースには倫理的な問題が発生する可能性も高く、この問題に対してもガイドラインで裁くのか、法律で裁くのか決まりきっていません。メタバース=仮想空間であるとは言え、メタバース内で受けたダメージとユーザーのリアルな心が受けるダメージを切り離すことは不可能。さまざまな体験が生まれて初めて法整備できる部分もあるでしょうが、まだまだメタバース内で起きたトラブルに対しては脆弱です。
さらに、「メタバースに対する依存」という点でも、今後問題が起きるのではないかという懸念が出ています。メタバースではVRゴーグルを装着して非現実的な世界を楽しむことができますが、のめり込むあまり依存症に陥る人が増える可能性を示唆する声も。
現時点ではVRゴーグル自体の価格が高く、大人から子どもまで誰でも手に入れられるものではありません。しかし、今後VRゴーグルの価格やその重さなどが改良され、より手軽にメタバースに没入できる環境が整ったとき、今までにない新たな問題が浮上することは明白です。
国内外問わず大手企業が参入し始めているメタバースですが、まだまだ課題や問題は山積み。市場規模の拡大は見込まれているものの、そう簡単に人々の生活に浸透するものではないという見方をしている人がいるのも事実です。
まとめ
メタバースは、企業に新たなビジネスチャンスをもたらす可能性の高い、救世主的な存在です。しかし、その周りを取り囲む環境はまだまだ整備の途中段階であり、今後まだまだ進化を遂げることができる技術だと言えるでしょう。