弊社Daisybell Japanの菅沼は、大学から中国・上海に渡り、卒業後はタイの大手商社で電子部品営業としてキャリアをスタートしました。その後はレノボで金融・保険業界の大手企業を担当し、現在はDaisybell Japanの営業統括責任者として、数多くの商談から契約後の顧客対応までを一貫して担っています。
最もお客様に近い場所に立つ営業責任者へのインタビューを、全3回でお届けします。(聞き手:Daisybell Japan 広報担当)
目次
1. 上海、タイ、半導体営業── 「生産を止めない」まで見るのが営業の仕事
── 今日はよろしくお願いいたします。まずは、社会人としての最初のキャリアからお聞かせください。
菅沼:商社で営業職をしていました。少し遡ると、高校までは日本で過ごし、大学から中国・上海の上海師範大学で学んでいます。卒業のタイミングで、日本に戻るよりは、いろいろな国を渡り歩きながら広い世界を見たい、若いうちにいろいろなチャレンジをしたいという思いがあり、当時、経済的に勢いのあったタイに移住して就職活動をしました。ご縁に恵まれて、大手商社の半導体実装(EMS)事業で電子部品の営業職に空きがあると聞き、もともとハードウェアが好きだったこともあって、そこでキャリアをスタートしました。
── いきなり海外で、しかも半導体という専門分野です。実際には、どのようなお仕事だったのでしょうか。
菅沼:振り返ると、営業の基礎を学べた仕事だったと思います。製品そのものは非常に専門的ですが、お客様からすると単に「この半導体が欲しい」という話ではないんですね。価格、納期、供給リスク、品質、将来の生産計画まで、すべてが一連につながっています。特に製造業では、部品が1つ納期に間に合わないだけで、製造ラインそのものが止まってしまう可能性があります。
── なるほど。注文を取って終わり、という世界ではないのですね。
菅沼:はい。調達、物流、メーカー、お客様の生産部門と、ステークホルダーが非常に多い仕事で、最終的に「お客様の生産を止めない」ところまでしっかり見る必要がありました。そこで学んだのは、営業とは商品を説明する仕事ではなく、お客様の困りごとを解決するために社内外の人を動かす仕事だ、ということです。
2. 1年かけた大型案件の失注── 「このプロジェクトは、なぜやるか分かっていますか」
── その後は、IT業界へ移られたそうですね。
菅沼:レノボで法人営業をしていました。ThinkPadのイメージが強いと思いますが、サーバーや周辺機器も含めて企業のIT環境全体を見る立場で、担当は連結3,000名以上の金融・保険業界です。商社時代と大きく違ったのは、お客様によって「正解」が全く違うことでした。同じ「パソコンを導入したい」という案件でも、1,000台を一斉に入れ替えたい会社、セキュリティを優先したい会社、リモートワークの環境を作りたい会社では、提案内容が全く違うんです。何を売るかよりも、「この会社は何を変えたいのか」を先に考えて、そこにパズルのピースを当てはめていく営業のやり方に変わりました。
── その頃に、営業観が変わる大きな転機があったと伺いました。
菅沼:ある大手金融機関の大型案件です。1年ほど営業をかけて、最終的に受注できませんでした。スペックも価格も導入メリットも丁寧に説明したつもりでしたし、多くの方を巻き込んで、つけ入る隙のない提案をしているつもりでした。
── 1年かけての失注は、悔しいですね。敗因はどこにあったのでしょうか。
菅沼:失注後に「後学のために教えてください」とお客様に伺ったところ、こう言われました。「あなたの製品がなぜ良いかは、よく分かった。でも、このプロジェクトをなぜやるか、分かっていますか」と。当時の私は、本当の意味では分かっていなかったんです。お客様がこのプロジェクトを立ち上げた本当の理由に踏み込まず、売りたいものを売る営業になってしまっていました。
── 厳しくも、ありがたいお言葉ですね。そこから、何を変えられたのでしょうか。
菅沼:商談の最初に商品の説明をするのを、一切やめました。お客様と会ったら、まず「なぜ今これをやろうとしているのか」「何もしなければ半年後、1年後に何が起きるのか」「誰が一番困っているのか」を聞くようになりました。営業として一皮むけたのは、ここだったと思います。この考えは、AIを扱ういま、むしろ強くなっています。AIは機能から入ると失敗しやすい商材で、「AIで何ができますか?」から始まると方向性のコントロールが難しくなってしまう。だから私たちは、「御社の業務のどこに一番負荷がかかっていますか」「何に一番困っていますか」から商談を始めます。
3. デモを聞いた瞬間の確信── 電話は「新しい業務を作らなくていい」市場
── そんな菅沼さんが、Daisybellに参画された経緯をお聞かせください。
菅沼:当時の経営メンバーから、「日本の電話インフラを一緒に変えよう」と直接誘っていただいたのがきっかけです。電話は、少子高齢化が進む日本でこれからも使われ続けるアナログなチャネルでありながら、受けること単体では付加価値を付けづらい。であれば、そこはAIにこなしてもらって、人はもっと有意義なところに時間を使おう──この話が、最初からすごく腑に落ちました。
── プロダクトの第一印象は、いかがでしたか。
菅沼:初めてデモを聞いたときのことはよく覚えています。音声のクオリティに驚かされて、その場で「これは売れる」と確信しました。もっと言えば、これがハマるお客様はたくさんいるな、と思いました。
── 「ハマるお客様がたくさんいる」というのは、どういうことでしょうか。
菅沼:電話って、お客様から電話が来る、店舗から本部に電話が来る、予約を受ける、故障を受ける──すでに世の中に存在している業務なんですよ。新しい業務を作る必要がない。
既存の業務をそのままAIがサポートしていく切り口でやれるので、お客様を選ばないんです。生成AI自体は数年前から注目されていますが、業務で使いこなしている会社はまだ多くありません。多くの会社が「AIで何ができるだろう?」から始まってしまうからです。その点、電話は、すでにある業務で、人が付加価値を付けづらく、AIがカバーしやすい。条件が揃っているので、音声AIの市場は盛り上がりが早く来ると見ています。
── ここからは、現在のお仕事について伺います。営業統括責任者として、どのような役割を担っていらっしゃるのですか。
菅沼:かなり広い範囲を見ています。新規商談もデモもしますし、契約条件や見積もり、要件定義、本番導入後のフォローも担当します。毎月、数多くのお客様と商談でお会いしていて、業界は金融、病院、小売などが中心です。広すぎるように見えるかもしれませんが、私はこのつながりこそ大事だと思っています。
「店舗の問い合わせを減らしたい」という一言でも、店舗スタッフが困っているのか、本部が困っているのか、対応しきれず電話が放棄されてしまっているのかで、作るべき仕組みは全く違います。その背景を知っている人間が、契約後もちゃんと残っていることは、お客様にとってすごく大事だと思うんです。
── ご自身のミッションを一言で表すと、何になりますか。
菅沼:売上を作ることだけではなく、導入いただいた企業を、すべて成功事例に導くことです。しっかり伴走して、他のお客様で得たノウハウも横串で通しながら、アドバイザーのような立ち位置でお客様の成功まで誘導していく。それが私の役割だと思っています。
4. 商談で見えてきた現場の悩み── お客様の不安は、3段階で変わっていく
── いまは、どのような企業からお問い合わせが来ているのでしょうか。
菅沼:一番多いのは人手不足です。ただ、「人が足りません」というシンプルな相談だけではありません。全国に店舗展開している小売チェーンでは、店舗から本部への問い合わせが増え続けているのに本部の人数は変わらず、本来は別の仕事をしている社員の方が電話当番をしている、という実態があったりします。件数はそこまで多くなくても、設備の故障対応などで1件15分、20分かかり、その間は他のことが何もできなくなってしまう、というケースもあります。
── そうした状況は、この1年で変わってきていますか。
菅沼:一番変わったのは、AIが「必須」になったことです。「AIを入れないと置いていかれる」というのが、いまの現場の空気感です。必要に迫られてAIを導入しようとする会社が明らかに増えました。電話を受けた後のExcelやCRMへの入力、担当者探し、折り返し依頼といったアフターコールワーク(ACW)をAIでサポートする切り口のご相談も増えています。
── 商談の場で、お客様はどのような不安を口にされますか。
菅沼:商談のステップによって、不安の質が全く違うんです。最初は「AIはちゃんと聞き取れるのか」「会話が不自然にならないか」「高齢の方でも大丈夫か」という、AIそのものへの不安。これはデモを聞いていただくと、かなり解消されます。
── デモで最初の不安が解けた後は、どのようなご質問が出てくるのでしょうか。
菅沼:「クレームだったらどうするのか」「分からないときは人に転送できるのか」。これもその場で実演して解消いただくことがほとんどです。具体的な導入の話になると、「転送先のオペレーターが全員対応中だったら」「CRMの登録に必要な情報が取れなかったら」という話になっていきます。ここまで来ると、もうAIの話ではなくて、AIを使った業務フローをどう設計するか。ここからが本当の商談だと思っています。
── どのお客様にも「AIで100%やりましょう」とは言わない、と伺いました。
菅沼:一度も言ったことがありません。今のAIの実力から見ても、人とAIのハイブリッドが理想です。どこに境界線を引くかを、お客様のフローを噛み砕きながら、AIができること・できないことを整理してフローを作っていく。それが、順番に出てくる不安や疑問を解消していくステップだと思っています。
5. 選ばれる決め手は4つ── そして「できないこと」を先に伝える
── 比較検討の末にDaisybellが選ばれるとき、決め手は何になっているのでしょうか。
菅沼:主に4つあります。入り口は、やはり音声品質です。比較対象は他社の音声AIサービスになることが多く、人材派遣やBPOはそもそもコスト感が合いません。その中で、音声品質には自信があります。シリコンバレー本社で開発されている音声AIで、グローバルでは各市場を代表する大規模なエンタープライズ企業様にも導入いただいており、その品質が評価の入り口になっています。レスポンスが遅かったり会話が不自然だと、「従来のIVRと変わらないよね」となってしまう。入り口のドアを開くのが音声品質です。
── 音声品質が入り口のドアを開ける、と。2つ目の決め手は何でしょうか。
菅沼:業務に合わせた設計です。マニュアルが簡易的だったり、フォーマットがバラバラだったり、そもそもなくて「人の頭の中」にある会社も多いんです。私たちは「そこまでやります」と言い切ります。資料をすべていただければ、AIが理解しやすい形式知に変えて、その整理も一緒にやってしまう。AIに最適化してフローを組み直すところまでやります。ここを評価いただくことが多いです。
── 「そこまでやります」と言い切れるのは、なかなかできないことですね。3つ目の決め手は何でしょうか。
菅沼:既存システムとの連携です。日本の企業では、電話が単体で存在していることはあまりなく、CRMや基幹システム、店舗の管理システムと一緒に動いています。人間が各種システム画面を見ながら電話応対していたのと同じように、AIにもシステム連携が不可欠です。CRMをはじめとする既存システムと柔軟に連携でき、会社独自のカスタマイズにもしっかり追従できるのはDaisybellの強みだと思います。
── 日本企業の実情に合っていそうです。最後の4つ目は、何でしょうか。
菅沼:導入前後を通じた伴走の体制です。私たちのゴールは、お客様を成功事例にすることです。商品を売ったら終わり、質問に答えたら終わりではなく、コールセンターや業務改善に知見のあるメンバーが、AIを使ったお客様の業務をひとつ設計して完成させるところまで伴走する。この体制が評価いただいている価値だと思います。
── 最後に、これまでで一番印象に残っている商談をお聞かせください。
菅沼:ある企業で、店舗から本部への電話をAIで一次受付する案件でした。FAQや過去のログをいただいてエージェントを作ったのですが、実際の業務を見てみると、電話が来たらまず店舗を特定して、裏側のシステムに登録して──と、電話の応対だけをAIにしても意味がないことが、導入してから分かったんです。
そこで「一緒にオペレーションを見直させてください」とお願いして、お客様と一緒に「ああでもない、こうでもない」を繰り返しました。業務全体を見てAI導入を進める必要があると実感した、一番印象に残っている事例です。次回は、その「業務全体」の視点から、導入企業の現場でいま実際にどんな効果が出ているのかを、数字と現場の声でお話ししたいと思います。
(次回へ続く)
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