ーー:まず、Apas Port創業のきっかけを教えてください。
佐々木:Apas Portは、Discordで知り合った現在のコアメンバーである5人で立ち上げた会社です。2021年から2022年はNFTの黎明期で、世界中でプロジェクトが立ち上がっていた時期でした。その中で僕たちはそれぞれ、25万人から40万人規模の大きなプロジェクトの運営に早い段階から関わることができました。そこで感じた、国境を越えて世界中の人たちが一つにまとまっていく熱量に触れたこと、そしてこの体験を日本に持ち帰りたいと強く感じたことが創業のきっかけです。ただ、ほとんど顔を知らないまま創業したというのは珍しいケースだと思いますが、そこが僕たちならではの特徴かもしれません。
ーー:創業の際は、佐々木さんから創業メンバーの皆さんにお声がけされたのですか?
佐々木:そうですね。先ほどお話しした体験を日本に持ち帰りたいと考えていた時に、いくつかの重要な出会いがありました。最初は会社というよりも、みんなでプロジェクトを立ち上げようという気持ちでしたね。
ーー:会社設立当初の課題はどのようなもので、それをどのように克服されましたか?
佐々木:実は創業時はそれほど大きな課題はありませんでした。なぜなら、不安定になりやすいスタートアップではなく、ある程度の売上を確保した上での創業、いわゆる"ソリッドベンチャー"という形を目指していたからです。ありがたいことにクライアントや協力者の皆様のおかげで、安定したスタートを切ることができました。100点満点の派手なスタートではありませんでしたが、順調な立ち上げだったと思います。
ーー:Web3業界は、技術革新の速さや市場の変動性など、他の業界よりも不確実性が高い印象がありますが、そういった部分にどのように向き合っているのですか?
佐々木:確かに不確実性が高い業界だと思います。その不確実性の最大の要因は"人"なんです。Web3は良くも悪くも大きなバブルの中にあるので、「昨日まではGameFiでした」「ブロックチェーンL2のアーリーユーザーです」という人が、「今日はミームコインで100倍狙ってます」というように、収益が見込めそうな分野に一気に人が集中する傾向があります。僕個人はそれも一つの選択だと思いますが、僕たちは責任あるポジションにいる立場として、そうした流れに惑わされずに、NFTと現実資産の領域に軸足を置いて持続可能な事業づくりに集中しています。
ーー:Apas Portが掲げている「Web3の力で世界に感動を届ける」というミッションに込められた思いを教えてください。
佐々木:僕たちが最初に手がけたNFTプロジェクトが、美術家の長坂真護さんとの「Waste St. in NYC」でした。長坂さんは、ガーナにある世界最大の電子ゴミのスラム街から廃棄物を持ち帰って作品を作り、その売り上げで現地の雇用を促進している社会活動家でもあります。
彼との作品制作は僕たちにとってすごく心を動かされる体験でしたね。さらにNFT作品が即日完売し、それがスラムのゴミを減らす原資となって現地の方々が喜ぶ姿を見たコミュニティの皆さんにとっても、日常では得られないアートへの能動的な関わりが生まれた瞬間だったと思います。社内でも涙を流すスタッフがいたほど、この「感動」という要素がこれからのコンテンツやアートの重要な要素になると感じました。これはコミュニティの皆さんから教えていただいた大切な気づきでしたので、会社のミッションに据えることにしました。
ーー:ちなみに"感動"といっても、オーロラを見る時のような視覚的な感動など、さまざまな種類があると思います。Apas Portが掲げている"感動"とはどのようなことを意味するのでしょうか?
佐々木:僕たちが目指す感動は、1人では起こせないものなんです。例えば、多くの人と時間をかけてきたことが報われる瞬間。その「報われる」という体験は1人ではなかなか生み出せません。応援してくれた人に応えたい気持ちや、一緒に頑張ってきた仲間がいてこそ生まれる。そういう報われる瞬間に感じる多幸感や奇跡のような体験こそが僕たちの考える「感動」です。
ーー:創業初期には先ほど話にも出た長坂真護さんと「Waste St. in NYC」に取り組まれたほか、「KAMITSUBAKI RESIDENT GENESIS」というジェネレーティブNFTアートのプロジェクトにも関わられたそうですが、これらの初期プロジェクトからどのような学びを得られましたか?
佐々木:最も大きな学びは、コミュニティの重要性です。「Waste St. in NYC」もそうですが、特に「KAMITSUBAKI RESIDENT GENESIS」は『神椿市建設中。』というKAMITSUBAKI STUDIOの2019年からのオリジナルIPをベースにしているため、Web3に参入する前から多くのファンに支えられていました。そこから僕たちも多くのことを学ばせていただいたんです。その時にWeb3のプロジェクトをゼロから立ち上げることも素晴らしいのですが、既存のファンの方々と共創していく方がより面白く、意味のあるものが生まれるということを実感しました。これがApas Portがコミュニティを重視している理由です。
ーー:Apas Portは、創業以来、順調に資金調達されている印象がありますが、どのようなところが投資家から特に評価されているとお考えでしょうか?
佐々木:資金調達に関しては、創業時期にも恵まれ投資家の方々から支援をいただけましたが、特に評価されたのはNFTの発行枚数や売り上げ、そして一緒に取り組んできた方々の顔ぶれという実績です。創業当時から僕たちは、NFTの海外展開を成功させていましたし、長坂さんとのプロジェクトはアジアでトップクラスのフロア価格を実現していました。そうした実績があったので、むしろ「なぜ会社にしないのか」と投資家の方々から言われるほどでしたね。ただ、そういった経緯があったからこそ、今も実績にはこだわり続けています。
ーー:実績という点では、2024年に新規サービスとして、「HARVEST FLOW」と「Harvest Hall」を立ち上げたとお聞きしています。具体的にどのようなサービスなのでしょうか?
佐々木:HARVEST FLOWは、暗号資産を社会課題解決に取り組む事業者や個人に貸し出す運用サービスです。現在はカンボジアのローン事業者さんと連携して、トゥクトゥクドライバーさんへの資金提供を通じたPoC(実証実験)を実施しています。2024年秋からのテストで手応えが得られたので、2025年3月までに新しいネットワークチェーン"Plume"での本開発を進める予定です。また、将来的には日本の事業者さんや個人の方への提供も考えています。
一方、Harvest Hallは、日本のアーティストをWeb3でグローバルに展開していくギャラリーです。従来の展示会やSNS、出版といったルートでは世界進出が難しい優秀なクリエイターたちに、NFTを活用して言語の壁を超えた新しい可能性を提供していきたいと考えています。実際、第一弾としてコラボレーションした短編アニメーターのかに座さんの作品は、2週間で3,574ミントという大きな反響があり、好評をいただいています。また、アーティストさんにもすごく喜んでいただけたので、非常に嬉しく思っています。今後もより多くの日本のアーティストさんの世界進出をお手伝いできればと考えています。
ーー:これらのサービスを立ち上げた経緯を教えてください。
佐々木:事業を進めていく中で、現実世界と暗号資産領域に関する二つの重要な課題が見えてきたからです。一つは日本の優秀なクリエイターが世界進出に苦労しているというミクロな課題。もう一つは400兆円規模の暗号資産が、主に投機やギャンブルに使われていて、有益な使い道がほとんどないというマクロな課題です。こうした課題に対して、投資家さんへのリターンと社会課題の解決を両立できる方法はないかと考えているうちに、これらのサービスのアイデアが生まれました。
ーー:日本発のWeb3プロジェクトとして、グローバル展開においてどのような差別化を図っていますか?
佐々木:Web3の世界は既にグローバルなので、特別な差別化は意識していません。一方でポジショニングには強いこだわりがあります。その上で意識しているのは、1889年のパリ万博ですね。世界にエッフェル塔が初めて披露されたこの万博では、15日という短期間でエッフェル塔が企画されました。エッフェル塔の建設には、当時としてはまだ珍しかった鉄鋼や電灯が用いられましたが、その企画作成から実行までのスピード感や革新性はWeb3にも通じる特徴だと思います。
また、このパリ万博では、ルイ・ヴィトンの有名なダミエ柄も発表されています。パリの皮革技術と日本の文化を掛け合わせた国境を超えたコラボレーションとして生まれたこの柄は、150年近く経った今でも魅力的です。僕はこのパリ万博の二つの象徴的な出来事をWeb3シーンに重ね合わせて考えています。
つまり、エッフェル塔のような壮大な象徴的存在を目指すのか、それともルイ・ヴィトンのようにプロダクトと真摯に向き合う存在を目指すのか。このポジショニングを常に意識しているんです。この後者のアプローチにならって、僕たちも10年後、100年後に見ても誇れるものを生み出すことを心がけています。
ーー:そのためには持続可能なエコシステムが重要になってくると思いますが、Apas Portの取り組みとして持続可能なエコシステム構築に向けて注力されていることはありますか?
佐々木:そもそも持続可能なエコシステムには、それを支える持続可能な事業が不可欠だと考えています。Web3では、セールストークだけで一時的に盛り上がるエコシステムを数多く見てきましたが、それでは長続きしません。だから、僕たちは事業基盤の構築に注力しています。
事業が成り立てば、チームやコミュニティへの還元も手厚くできますし、より確実な未来像も描けると考えています。もちろん、分散化されたエコシステムについても構想を持って進めており、2026年を目処に発表できればと思っています。
ーー:長坂真護さんやかに座さんといった日本のクリエイターとコラボレーションする上で特に重視されているポイントは何でしょうか?
佐々木:Web3はグローバルなマーケットを中心に拡大していますが、現実世界と同様に数多くの模倣品が存在しています。また、短期的な利益を優先すると、成功例に作風が似てくる傾向もあります。世界中がトレンドを追いかけるのは決して悪いことではありませんが、僕たちは中長期的な視点を重視しているので、作家性やオリジナリティの高いクリエイター、アーティストの方々と組むようにしています。それは将来に価値のある作品を残すことが、デジタルカルチャーにとって重要だと考えているからです。
その上で、デジタルならではの視点からのキュレーションも大切にしています。つまり、デジタルで見る良さとリアルで見る良さがある中で、デジタルにすることで新しい魅力が引き出せるかどうか。それを重視してます。例えば、かに座さんの作品ならアニメーションの動き、長坂さんの作品なら立体感というように、それぞれデジタルならではの表現で面白さを引き出せる部分に着目しています。
ーー:佐々木さんはよくApas Portを「Web3業界のA24にしたい」とおっしゃっているとお聞きしていますが、その真意をお聞かせください。
佐々木:先ほどのエッフェル塔の話にも通じますが、Web3はまだ黎明期で、世界的な注目は主にインフラや構造物に集まっています。ただ、これが本当の意味でカルチャーや文化として根付いていくためには、コンテンツやプロダクトが必要不可欠だと考えています。
そういった中で、世界から見ると僕たちはまだアウトサイダーなんです。同じようにA24の映画も必ずしもマスに刺さるものではありません。でも、一部の人には非常に深く刺さるというか、「こんなにも不愉快な気分になれるのか」とか「こんなにも人の間抜けさに共感できるのか」とか、ある一つの感情を強く刺激してきます。だから、僕はA24の映画を単なる映画としてではなく、感情を揺さぶる装置として捉えています。
これは単なるグローバル戦略という見方ができるかもしれません。でも、そこが非常に重要な要素だと考えています。多くの人に受け入れられることも大切ですが、一部の人の心を強く揺さぶる方が深い共感を生み出せるはずです。「Web3業界のA24」を目指すという発言は、決してニッチな方向を目指すということではありません。従来の大衆映画がビジネスの王道とされてきた中で、独自のポジショニングを確立したA24への憧れとリスペクトを込めて、そう表現しています。
ーー:Web3技術の社会実装を通じて、どのような未来を創造していきたいとお考えでしょうか?
佐々木:Apas Portにとっての究極のゴールは世界平和の実現です。Web3の世界は仮想通貨を使って取引をするため、そもそも国境という概念がありません。また、個人が自分の情報やデータを保持できることで、それぞれが主役として参加できる世界でもあります。
この特徴を象徴する出来事があります。あるプロジェクトで国別のチャンネルを見ていた時にロシアとウクライナのチャンネルがありました。両国は現在戦争状態にありますが、そこでの会話は普通に行われていましたので、僕が不思議に思って理由を尋ねたところ、「それはそれ、これはこれ」という返答がありました。その時に改めてWeb3における「国境がない」という状態の素晴らしさを実感したんです。
もちろん、現実世界の国境をなくすというのは、それぞれの国の歴史など様々な要素を考えると非常に困難です。でも、もう一つの平和な世界としてWeb3の世界が存在することには大きな意味があると考えています。僕たちの取り組みは、心の国境や経済的な国境を取り払うことができる。そしてそれが世界平和につながると信じています。
ーー:Apas Portでは、今後の取り組みを加速させるべく、次世代のWeb3を担う若い人材を求めておられるとお聞きしています。最後に、どのような人がこの仕事に向いているのか教えてください。
佐々木:この仕事の特徴は、日本にいながらグローバルなマーケットで仕事ができること、そして多くの気づきや出会いが得られることです。また、技術とクリエイター、アートやデザインを掛け合わせるという僕たちにしかできない領域で仕事ができます。
そこには自分たちが感動できる瞬間があり、一緒に仕事をする方々にも感動を届けられる。さらにコミュニティとの間でも感動を分かち合える。僕たちは今、未来に対して責任感を持って仕事ができるポジションにいます。そういったことに興味のある方とは、ぜひ一緒に働かせていただきたいですね。