【制作の裏側】フルAIでテレビCMを作ったら、半年かかった話。
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「AIなら、ボタンひとつで動画ができるんでしょ?」
2025年の今になっても、そんなふうに思われることがたまにあります。でも、声を大にして言いたい。「テレビCMクオリティ」を目指すと、AI制作はめちゃくちゃ泥臭い!
今回は、今年の5月からスタートし、11月にようやく納品できた**「フルAI・テレビCM制作プロジェクト」**の裏側を、可能な範囲でシェアしたいと思います。
特にこだわったのは、「オリジナルソングへの完全なリップシンク」と「北欧の世界観」。そして、プロジェクトを成功させたカギは、**「事前の動画テスト」**にありました。
プロジェクトの全貌:なぜ半年もかかったのか?
まずはざっくりとしたタイムラインから。
- 期間: 2025年5月〜11月
- 内容: フルAIによるテレビCM制作(&縦型SNS展開)
- 特徴: SE(効果音)なし、オリジナルソングのみで勝負。
半年と聞くと「長い!」と思われるかもしれません。でも、クライアント様のこだわりである**「北欧の緻密な世界観」**を再現し、キャラクターを歌に合わせて違和感なく動かすには、これが必要な期間でした。
僕たちが踏んだプロセスは、大きく分けて4段階です。
1. 企画フェーズ:「動画のテスト」がすべてを救った
(期間:5月〜6月)
企画は3回の提案を通して詰めていきました。ここで一番重要だったのが、絵コンテと同時に行った**「動画のテスト生成(PoC)」**です。
静止画で見せるのは簡単なんです。今のAIは絵がうまいから。 でも、いざ動かすと「あれ? なんか違う」「指がおかしい」「背景がグニャる」というのがAI動画の常。
だからこそ、本番に入る前に**「今の技術で、このキャラクターを動かすとこうなります」**というテスト動画を作り、クライアント様に見ていただきました。
「この質感ならOK!」 「ここはもう少し制御できないか?」
この**「クオリティの握り」**を最初にできたこと。これが、後半のトラブルを防ぐ最大の勝因でした。
2. 静止画フェーズ:北欧の空気感を「固定」する
(期間:7月〜8月)
ここからは世界観の構築です。 クライアント様から共有いただいたのは、洗練された**「北欧」**のイメージ画像。
AIに「部屋、おしゃれ」と指示するだけでは、どうしてもアメリカンになったり、ファンタジーすぎたりします。光の入り方、家具の質感、色使い……。プロンプトとレタッチを駆使して、**「これぞ北欧」という一枚絵(Styleframe)**を作り込みました。
ここでのルールは**「修正は2回まで」**。 回数を決めることで、お互いに「ここを直せば完璧になる」という集中力が生まれます。動画にする前に、キャラの顔も背景もここで完全にフィックスさせました。
3. 動画フェーズ:歌うAIキャラクターとの戦い
(期間:9月〜10月)
さあ、いよいよ最大の山場。**Image to Video(静止画を動画にする)**の工程です。
今回の肝は、オリジナルソングに合わせた「リップシンク(口パク)」。 しかも、SE(効果音)は一切なし。音楽と映像の力だけで見せる構成なので、口の動きがズレると一気に冷めてしまいます。
- 歌詞の母音に合わせて口が開いているか?
- 歌っている時の表情(眉の動きなど)は感情と合っているか?
ここでも**「修正は2回まで」のルールを適用。 無限に生成できるAIだからこそ、「奇跡のテイク」**が出るまで粘るのではなく、確実なディレクションで正解を導き出す。 何百回もの生成の裏には、そんな地道な試行錯誤がありました。
4. 納品、そして縦型へ
(期間:11月)
最後に編集、グレーディングを経て、無事テレビCM用データが完成! ……ですが、仕事はまだ終わりません。
「テレビ(16:9)からスマホ(9:16)へ」
今の時代、CMはSNSでも流れます。 単に横長の映像をトリミングすると、せっかく作った北欧の部屋やキャラクターが見切れてしまう。 そこで、AIの**「アウトペインティング(背景拡張)」**技術などを使い、縦型専用の構図として再編集を行いました。
まとめ:高品質のAI制作は現状、一撃では終わらない
半年間のプロジェクトを振り返って思うのは、**「フルAI制作=楽をするための技術ではない」**ということです。
むしろ、人間が頭の中で描いている「北欧の空気感」や「歌のニュアンス」を、AIという絵筆を使ってどう表現するか。そこには、従来の実写撮影と同じくらいの、あるいはそれ以上の**「ディレクションの熱量」**が必要でした。
2025年、AI動画はここまで来ました。 「AIでなんとなく作った動画」から、**「AIだからこそ描けた、心に残る映像」**へ。
そんな手応えを感じた、熱い半年の記録でした。
今回の制作レシピ(まとめ)
- 企画: 提案3回 + 動画テスト(重要!)
- 静止画: 生成・合成(修正2回まで)
- 動画: Img2Vid・リップシンク(修正2回まで)
- 納品: 横型納品 → 縦型編集へ