最近、「AI広告は嫌だ」「AIで作った広告には惹かれない」という声を目にすることが増えました。
私は普段、WebデザイナーとしてAIも積極的に活用しています。
だから最初は、「AIだから嫌」という意見に少し違和感がありました。
でも、ある出来事を思い返したとき、「もしかしたら、これはAIの話ではないのかもしれない」と考えるようになりました。
以前、ペットショップで100万円ほどするプレミアムドッグの販促ポップを見たときのことです。
そのポップは、おそらくAIで生成された画像を使って作られていました。
その瞬間、私はなんとも言えない違和感を覚えました。
「100万円の犬を販売するなら、それ相応に広告にもお金をかけるべきでは?」
そんなことを思ったのです。
その時は「AIっぽい広告だから嫌だった」と考えていました。
でも、よくよく自分の感情を掘り下げてみると、違いました。
私が感じていたのは、
「私に商品を売りたいなら、もう少し手間暇をかけてくれ。」
という気持ちだったのです。
その話を夫にすると、こんな返事が返ってきました。
「でもさ、そのポップをAIで作って時短できたなら、その分スタッフさんが犬や猫のお世話をする時間が増えるかもしれないよ?」
なるほど。
それは確かにそうです。
AIは作業時間を短縮するための道具です。
30分かかっていたポップ制作が5分になれば、その25分をもっと価値のある仕事に使える。
サービス全体で考えれば、むしろ良いことなのかもしれません。
私は少し考えてから、こんなことを言いました。
「でも、もけを迎えた時のこと覚えてる?」
我が家には「もけ」という猫がいます。
ペットショップでお迎えした日に、スタッフさんが写真に手書きでお花と
『もけちゃん』
と名前を書いてくれました。
私はその写真を今でも大切に持っています。
そのことを夫に話すと、
「そういうのは嬉しいけど、それって昔からある"履歴書は手書きじゃないと気持ちが伝わらない"って話と同じじゃない?」
と言われました。
確かに似ています。
でも、私は少し違うと思いました。
履歴書は採用担当者が何百枚も見るものです。
そこでは手書きかどうかよりも、内容や能力の方が重要でしょう。
一方で、ペットショップは違います。
ペットは「商品」ではなく、「家族」を迎える場所です。
だからこそ、購入体験そのものが商品の価値になります。
手書きで名前を書いてくれたこと。
送り出す時に「幸せになってね」と声をかけてくれたこと。
その一つひとつが、今でも思い出として残っています。
つまり私は、手書きという行為そのものに価値を感じていたわけではありません。
そこから伝わる「あなたのことを大切に思っています」という気持ちに価値を感じていたのです。
UXデザインでは、「機能価値」と「情緒価値」という考え方があります。
機能価値とは、役に立つこと。
例えば、
「この猫は何歳です。」
「このフードは高タンパクです。」
「営業時間は〇時までです。」
これは情報として必要な価値です。
一方で情緒価値は、
「このお店は、この子を本当に大切に育ててきたんだ。」
「このスタッフさんから迎えられて良かった。」
そんな感情を生み出す価値です。
情報だけでは作れない、人の記憶に残る体験です。
AIは、機能価値を作るのがとても得意です。
画像も文章も、短時間で一定以上のクオリティを作れます。
だから私はAIを否定するつもりは全くありません。
むしろ、これからのデザイナーにとって必要不可欠なパートナーだと思っています。
でも、その一方で思うのです。
AIが当たり前になればなるほど、人にしか作れない価値はもっと重要になるのではないか、と。
AIでは再現できない接客。
偶然生まれた会話。
手書きのメッセージ。
その場でしか感じられない空気。
そのブランドだからこそ体験できるストーリー。
私は、こうしたものを「コピーできない体験」と呼びたいです。
どれだけAIが進化しても、その瞬間に人と人との間で生まれた出来事はコピーできません。
そして、人は案外そういうことを覚えています。
だから私は最近、「AI広告反対派」の人たちは、本当にAIが嫌なのではないのかもしれない、と考えるようになりました。
きっと彼らが求めているのは、
「私に売りたいなら、もっと本気になってほしい。」
「もっと想いを込めてほしい。」
そんな気持ちなのではないでしょうか。
もちろん、それが必ずしも正しいとは思いません。
AIで効率化した結果、お客様へのサービス品質が向上することもあります。
夫の言うことも、間違いなく正しいのです。
だから大切なのは、
AIを使うか、使わないか。
ではありません。
私がデザイナーとして考えたいのは、
「AIで浮いた時間を、感情価値の創出に使えているか。」
ということです。
AIで制作時間が半分になったなら、その時間でユーザーインタビューをする。
接客を丁寧にする。
ブランドの世界観を磨く。
手書きのメッセージを書く。
もっとワクワクする体験を考える。
効率化そのものには価値があります。
でも、その余白を何に使うのかで、ブランドの未来は大きく変わるはずです。
AIによって「作ること」の価値は、これから少しずつ変わっていくのかもしれません。
だからこそ私は、画面の中のデザインだけではなく、その先にある体験を設計できるデザイナーでありたいと思っています。
AIがある時代だからこそ、人にしか作れない情緒価値を大切にする。
そして、誰にもコピーできない体験を設計する。
それが、これからのUXデザインの本当の仕事なのではないか。
そんなことを、最近よく考えています。