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雑多な経験でも役に立てると信じたい

 私は自分の経歴を誇れるものではないと思いますが、捨てたものでもないとも思います。

 大学時代、ゼロ年代の頃から私は農地が相続において問題になることを見越して司法書士の資格取得を目指しました。残念ながら資格取得はかないませんでしたが、実務で得たことも会わせ、相続、法人形態のあり方について知見を多く得ることが出来ました。それは今、農業の法人化への道筋を考える上で役に立ってます。

 また、地方で生業を営む人達と直接交流する中で、地方観光のあり方について見えてきたものがありました。それまで、大都市、例えば東京、最近では中国、さらに欧米旅行者によるインバウンドを呼び込むことが観光産業の活性化である、と単純に考えていました。それができる地域であれば言うことはありません。有益な経済活動は地域を潤してくれるでしょう。

 しかし、それがかなわない地域もあります。そういった地域は別な戦略を採る必要があるはずです。観光資源を無理矢理つくらなくても良いのです。私の故郷も豊かな土地ではないので、自戒を込めて厳しい言葉を使いますが、無理をして自分たちの生き方を「おもてなし」のためだけに作り替えてしまった土地を旅行者はみたいわけではないのです。事実、最近の欧米人は「観光地化されていない日本」を求めています。彼らの多くは日常が営まれる異国に我が身を溶け込ませたいのであって、「ジャパニーズパーク」で遊び回りたいわけでは無いはずです。

 答えの一つとして、手前味噌ですが私の実家の野菜直売所があります。平日のホールは地域の母子の習い事に、土日には朝市が開かれ住民が集まります。徒歩圏に食料品店が無くなってしまったため、まとめ買いをする人も多くいます。外にある窯で作られたピザや焼き芋、地域の味付けによる昼食は地元の人はもとより、東京からサイクリングや釣りに来た人々も食べていきます。

 ひるがえり、私は幸せな未来だけを夢想しているわけではありません。最初に述べた農地の相続・後継者問題は私にとっても、直売所に野菜を卸してもらっている農家にとって人ごとではありません。それらを解決するために様々な人々が努力しているのはもちろん承知しています。新たな施策を次々と、効果を計る前にwebでされるプレスリリースは効能はもちろんありますが、副作用もあると思っています。それを最小化するために、広告記事へのリテラシーが、今後攻めの施策を行いたい当事者にはあったほうがいいと考えています。

 ここまでの私の話が雑然としているように、私の人生経験も雑多で、例えるならいくつもの細い支流が離合する川です。私は幅の整った川のように芯をもって経験を厚く重ねてこられた方のように大きな仕事はできないでしょうが、大きな川が避けてしまうような浅い湿地や岩の中にもするりとすべりこみ、その土地を潤す手伝いができるような、上善な水になりたいと考えています。