ゲーム業界で「一発当てる」は本当か|ヒット作の前に積み上がっているもの
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今はさすがにあまり聞かなくなりましたが、昔は他業種の方から「ゲームって、一発当てたらすごいんでしょう?」と言われることが何度もありました。
当時はゲーム会社で役員をしていたこともあり、ゲームの売上がそのまま個人の収入に直結するようなイメージを持たれていたのかもしれません。確かに、ヒット作を出した方が、だれでも知っているくらい有名になることはあります。
そのため、ヒットを出した人の収入や、成功した人がどのように働いてきたのかが気になる方も多いのだと思います。
ヒット作は突然生まれない
この記事で書きたいのは、ゲーム開発のヒットが本当に一発逆転のようなものなのか、ということです。
結論から言えば、表に見えるきっかけは一度でも、そこに至るまでの中身は一度ではありません。発売や話題化の瞬間は目立ちますが、その前には長い積み上げがあります。そこを飛ばしてしまうと、ゲーム業界の仕事の実際は見えにくくなります。
私自身は、一発当てた経験はありません(当たった作品に乗っかったことはあります)。
ただ、結果として大きく当たった人たちは何人も見てきました。そこで共通していたのは、長く開発を続けて知見を積み上げていたこと、信頼できる仲間を少しずつ集めていたこと、そして何年もかけて取引先との関係を丁寧に築いていたことです。
あるタイミングでタイトルがスマッシュヒットすると、本人のまわりには大きな称賛が集まります。本人は「運が良かっただけです」と話していることも多いです。
この感覚は、私はかなり正直なものだと思っています。トリガー自体は、たしかに運に左右されます。ただ、その運を受け止めて形にできたのは、それまでに作ってきた土台があったからです。
当たった瞬間だけが強く見える
ヒット作が出ると、どうしても結果ばかりが目に入ります。
売上が伸びた、話題になった、受賞した、名前が広がった。外から見える情報は、どうしても発売後のタイミングに集まりやすいです。
そのため、周囲には急に成功したように見えることがあります。
ただ、現場ではそのずっと前から準備が始まっています。企画を詰める時間があり、仕様を整える時間があり、作り切るための進め方を作る時間があります。開発そのものだけでなく、相談できる相手がいること、困ったときに頼れる関係があること、無理が出たときに支え合える体制があることも大きいです。
結果だけを見ると単発に見えます。
実際には、長い時間をかけて積み上げてきたものが、ある瞬間に見える形になっただけです。
運を受け止める準備が差になる
ヒットには運の要素があります。
市場の空気、競合の状況、出す時期、思わぬ注目、発信との噛み合い方。最後の伸び方まで、最初から読み切れるものではありません。
もちろん、積み上げても必ず報われるわけではありません。
良いものを作っても届かないことはありますし、真面目に続けていても機会に恵まれないこともあります。残酷な言い方になりますが、そういうことが普通に起きる世界です。
ただ、それでも積み上げが要らないという話にはなりません。
積み上げても報われないことはありますが、積み上げがなければ土俵に立ちにくいのも事実です。追い風が吹いたときに形にできるかどうかは、日々どれだけ準備してきたかでかなり変わります。
長く開発を続ける中で、知見が増えているか。
信頼して一緒に動ける仲間がいるか。
取引先や協力会社と、短期ではない関係ができているか。
こうしたものは目立ちませんが、実際にはかなり効きます。
同じような機会が来ても、それを成果につなげられる現場と、つなげきれない現場があります。そこを分けるのは、派手な才能だけではなく、日々続けてきたことの量と質です。
地味な蓄積ほど後で効いてくる
たとえば、あるチームが小さな開発を継続していたとします。
大きな作品名がなくても、仕様を詰める力がつき、見積もりの精度が上がり、問題が起きたときにも慌てず立て直せるようになっていきます。人の入れ替わりがあっても、最低限の品質を保ちやすくなります。こうした蓄積は、普段はあまり表に出ません。
また、すぐ目に見える成果にはならない積み重ねもあります。
相談に丁寧に返すこと、無理な約束をしないこと、小さな仕事でも雑に扱わないこと。そうした積み重ねが、後になって良い相談や大きな機会につながることがあります。外から見ると急に話が広がったように見えても、実際には前からの信頼が効いています。
こうしたものは、ヒット作の紹介記事にはあまり出てきません。
ただ、現場に近いところで見ていると、効いているのはむしろこちらです。派手な一手より、崩れない進め方のほうが、長い目で見ると大きな差になります。
見るべき場所は当たり方だけではない
ゲーム業界を見るときに、当たったかどうかだけを基準にすると、実態を見誤りやすくなります。
何をどれだけ続けてきたか。どんな知見が残っているか。人と仕事の関係が、その場限りで終わっていないか。そのあたりを見るほうが、現場の強さは見えやすいです。
「一発逆転」という言葉は分かりやすいですし、印象にも残ります。
ただ、現場の感覚に近い言い方をするなら、見えていなかった積み上げが、あとから結果として見えただけなのだと思います。
ヒットは突然生まれたように見えても、その前には長い準備があります。
運を否定する必要はありませんし、努力を美化しすぎる必要もありません。けれど、当たった瞬間だけを切り取ってしまうと、ゲーム開発の仕事の大事な部分が抜け落ちます。
日々の地味な積み重ねは、外からは見えにくいです。
それでも、そうしたものがあるからこそ、たまに来る大きな波を受け止めることができます。ゲーム業界のヒットをそう見ておくと、派手な成功談だけに引っ張られず、現場の営みをもう少し実感に近い形で捉えられるのではないかと思います。
おわりに
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