【質問】仕事の依頼が増えた時の、受ける受けないの判断基準についてです。その点についてお話しいただければと思います。フリーランスの良さは、自分で仕事を選べることの一つだと思います。だんだん仕事が増えてきた時に、どの仕事を受けるか断るかを自分で判断する必要が出てくると思いますが、そういった際の判断はどのようになさっているのでしょうか。(30代・女性 フリーランス3年目)
【回答】仕事が選べる状態になるなんて、素晴らしいですね。うらやましい。私は、基本的には断ることはありません。全て受けます。駆け出しの頃から今に至るまで、これは語弊があるかもしれませんが、基本的にはこちらからお断りするということはほぼありません。とはいえ、積極的に受けたいと思う仕事とそうではない仕事の判断基準はあります。前者はガツガツこっちから提案してつないでいきますが、後者は積極的に関与せず、話が立ち消えになっても追いかけません。
どんな仕事には積極的に関わるのか。まず、楽しさはなさそうだけれども、ものすごくギャラが高い仕事。これは受けます。また、ずっと仲良くしていただいているお客さんが、とても安い仕事を出してきた場合も受けます。そして、チャレンジングな仕事、つまりその時の自分の状態にとって、これは次なるステップになりそうだと感じた時は、もうギャラを度外視して受けます。例えば、ファシリテーターやモデレーターの仕事は良い例です。昔は単なるインタビュアー、ライターだったので、そのような機会はありませんでした。
ある時、ソリューションを提供している会社の担当の方からこんな相談がありました。初めてイベントを開催することになり、その際にMCや司会が必要だという話になったとか。しかし、初めての試みであり、外部のプロの司会者や事務所に依頼するのもどうかと考えていたようです。その時、ふと「もしかしたら伊藤さんならできるのではないか?」と思いつき、「伊藤さん、こういうイベントをやるのですが、司会はできますか?」と相談をしてくださったのです。私としては、当然、面白そうだと感じて「やります」と即答しますよね。ギャラなどの確認もせずに「やりますよ」と答えて、チャレンジすることにしたのです。
そうすると実績ができるので、「このような司会を務めたんですよ」とSNSに投稿したり、仲の良い顧客に話したりしていたら、今度は大きな会社から、大きな会場でのファシリテーションの仕事の依頼が舞い込んできました。この流れは面白いな、と感じました。やはり、自分がやりたいと思っていることに声がかかった時は、お金などを考えず絶対に受けることで、必ず次につながるのだと実感しました。
他には、チームで仕事を受けるという考え方もあります。だんだんと仲間が揃ってきて、「私たちはインタビューを中心とした総合クリエイティブのような事業を展開していきたい」ということを発信したり、仲の良い顧客に話したりしていると、当然、チャンスが訪れます。そして、それをしっかり掴む、というようなイメージでしょうか。
ですから、受けない仕事はほとんどありません。少なくとも、こちらから断るということは、私の主義としてはありません。先ほど申し上げたように、安くても古くからのお客さんであれば、ずっと受け続けます。そのような感覚です。
ただし、最近、新規の依頼の場合は、見積もりを出すタイミングで、多少の判断を加える必要があると思うようになってきました。見積もりを出す際に、「これは絶対にやってみたい」と感じる仕事は、相手から予算を聞き、「これはぜひやりたいので、どのくらいの予算で見積もりを出せばオファーをいただけますか?」と尋ねて、それに合わせて見積もりを出します。逆に、そうではない仕事に関しては、提示された価格、あるいは少し高めの見積もりを出します。
そうすると、依頼があれば、「提示された金額をいただけるのであれば、しっかりやれるだろう」となりますし、高めの見積もりを出して依頼が来なければ、それはそれで良いか、というような感覚です。基本的には、受けない仕事はないのですが、見積もりで調整して、自分自身の納得感を作り出す、というような感覚です。
私たちが基本的に置かれている立場としては、断ることはない、ということです。断らない方が良いのです。こちらから断ったら、もう二度とその依頼者から相談は来ません。関係が切れてしまいます。私たちの仕事でもっとも重要なのは、意味のある人脈です。何かをやろうとするときに私のことを思い浮かべて声をかけてくれる人脈です。単なるお友達じゃないですからね。パーティでダベっているだけの人脈など不要ですから。
断るのではなく、どのように取り組むかを考えるべきです。どんなに大変でも、断らずに受けましょう、ということです。もちろん、無理をしてお客さんに迷惑をかけてはいけないのですが、受けて頑張る、あるいは少し仲間と一緒に仕事をして何とかこなす、ということをやることで、自分は必ず強くなります。
自分の今の頭の中で、「これ以上は受けられない」と限界を決めてしまうのは良くないです。もっと自分を鍛えることで、仕事の効率も上がりますし、皆さんと仲間と一緒にやることで、良いものを素早く作ることができるようになるでしょう。そして、それがすなわち、スモールビジネス化して仕事を拡大していく、組織の力を強くする、自分の力を強くする、という流れになります。もちろん、お金の面で非常に厳しい場合は、現実的に無理だということはあるかもしれませんが、単純にギャラの高低で判断するのではなく、このくらいの金額で皆さんに求められている、お客さんから求められているとしたら、これを実現するためにどうすれば良いのだろうか、ということを考えるべきだと考えています。
もっと効率よくできるのではないか、例えば現在であれば生成AIを最大限に活用して、ある程度人間の手を煩わせる部分はAIに任せる、といったこともできます。分業することで、リスクを下げたり、コストを抑えたりできるかもしれない、といったことを考えることが、非常に重要なのではないかと思います。
そのために、もちろん仲間は作っておかなければなりませんし、仮に仲間と協力することになった場合でも、仕事をしっかり受けられるイメージを作っておく必要があります。そのような考え方は、もちろん人それぞれで目指す道は違うと思いますが、私たちインタビュアーやライターは、お客さんと最も近い立場で向き合うので、ここからビジネスを作りやすい立場でもあります。そして、ビジネスを作れる立場になれば、その先に何が起こるかというと、例えば、お子さんがいらっしゃって子育てが大変な時期であっても、定期的に仕事を受けることができる、といったことが可能になります。また、仮に私が体調を崩したり、風邪を引いたりしてしまった時でも、仕事が滞りなく回るようになります。自分の収入のためだけでなく、お客さんが「伊藤にやってもらいたい」と思っている、そのようなお客さんに対して迷惑をかけない体制を作っておく、という次の段階に進むということです。
もうよっぽど、「いや、この分野は自分には無理だろう」という場合でも、私には断る選択肢はありません。受けます。それが、私が活動の幅を広げてこれた理由のひとつです。例えば、医療分野のドクターへの初めてのインタビューの依頼が来た時、「さすがにこれは自分には無理だろう」と思ったのですが、ふと考えて、「いや、でもこれをやっておくと良いかもしれないな」と思って、その時私は医療に関するインタビューの経験は全くありませんでした。しかし、人の話を聞くことは得意です。
ですから、医療の話を聞いて、医療従事者向けの記事を書くのは難しいかもしれないが、一般の方々向けに記事を書いたり情報提供をしたりするならできるかもしれない、それでも良いですか、と聞いて、そこに入り込んでやってみました。すると、そこからやはり医療に関する記事の依頼が増えていきました。科学分野もそうですし、宇宙開発関連などもそうですが、初めて依頼が来た時は、「いや、無理だ」と思うのですが、そのような依頼は、何とかなるだろう、と思ってしまうタイプなのです。
それは、キャリアが浅い頃からずっとそうしてきました。そうすると、活動の幅が広がります。そして、絶対に必死になりますから、一度受けてしまえば。やらなければならない状況になれば、「いや、これ分からないよ」と言いながら、例えば「宇宙の光の粒子って何だっけ?」と考えて、調べたりするのです。必死になれば、人は皆勉強しますから。
考え方は人それぞれですし、ライターの仕事への向き合い方や、これからのキャリアをどう築いていきたいかという考え方によっても違うと思いますが、私が駆け出しの頃は、漠然と必死に「この仕事しかない」と思っていたので、絶対に断らないぞ、と決めてやっていました。そのような経験から来ている考え方ですので、これは私の体験談としてお話しさせていただきました。決して皆さんに押し付けるつもりは全くありません。あくまで私の感覚です。
やはり、頑張らなければいけない時期というのは、きっと何か意味があるのだろう、というのはありますからね。ですから、今後は多少、まあ、今も基本的には断らないですね。断りません。よっぽど採算が合わない、といった場合は別ですが。基本的には、はい、ご紹介いただければ、しっかりやらせていただきます。伊藤は値段が高いと思われないようにしなければいけない、ということですね。