ふるさと納税ビジネスに感じるモヤモヤ——奪い合う経済と新しい価値の創造
最近、ふるさと納税関連の求人を目にすることが増えてきました。「地方創生」「地域の魅力を発掘」などのキーワードが並ぶと、一見すると素晴らしい取り組みのように感じます。しかし、私はどうしてもそこに違和感を覚えてしまうのです。それを言語化してみたところ、一つの結論に至りました——ふるさと納税ビジネスは「奪い合う経済」だからです。
経済の本質とは「成長」すること
ビジネスの理想的な形は、新しい価値を生み出し、市場を拡大し、結果として経済が成長することにあります。例えば、スマートフォンが登場したことで、デジタルサービス市場が拡大したり、ファストファッションの流行によって新しい消費行動が生まれたりしました。新たな技術革新やビジネスモデルが市場を拡張し、経済全体の成長につながるのです。
しかし、ふるさと納税はその対極にある仕組みのように思えます。
ふるさと納税の限界——決まったパイの奪い合い
ふるさと納税は「納税者が選択した自治体に寄付をすることで、返礼品を受け取る」仕組みです。しかし、日本全体の税収には上限があります。つまり、新たな価値を生み出して市場を広げるのではなく、すでに決まったパイをどう分配するかの話なのです。
たとえば、東京都で納められるはずだった1億円の住民税が、ふるさと納税制度を利用することで地方自治体へ流れる。地方自治体にとっては税収の増加になりますが、東京都にとっては税収の減少です。それ自体は別に問題は無いと思います。上京する人は、地方で生まれ、地方で育ったわけですし。地方のリソースが投資されているので、地方にもっと分配されるべきです。しかし、ふるさと納税には返礼品が付きものです。
カニや和牛などの返礼品の原価、さらにその手続きのコストや、ふるさと納税関連のコンサルティング企業への手数料などを考えると、最終的に自治体が使えるお金は減ってしまう。つまり、単純に「地方の税収が増える」のではなく、「手数料や返礼品でどんどん削られてしまう」という状況になるのです。
本来東京で使えた「住民サービスに使われるべき1億円」が、別の地方で「色々差し引いて住民サービスに使えるのは5〜6千万円」となることに、どのような社会的な意義があるのでしょうか。
ふるさと納税ビジネスの矛盾
この仕組みを考えると、ふるさと納税をサポートするコンサルティング企業やマーケティング会社が「地方創生」や「地域活性化」を掲げていることに、どこか違和感を覚えます。結局のところ、彼らの利益は「既存の税収をどこに移動させるか」によって生まれているのであり、新しい価値を創造しているわけではないからです。
もちろん、自治体としては「やらないと損をする」状況です。ふるさと納税を活用しないと、他の自治体に税収を奪われるだけになってしまう。だからこそ、奪い合いに参戦せざるを得ないのが現状でしょう。
しかし、この「奪い合う構造」が本当に持続可能なのか、地方創生につながるのかを考えると疑問が残ります。
新しい価値を生み出す仕事がしたい
私は、働く上では、単なるアサインされた作業をこなすのではなく、「新しい市場や価値や文化を生み出すこと」を大切にしたいと考えています。だからこそ、ふるさと納税の仕組みに違和感を抱くのかもしれません。
ふるさと納税という制度が、地方に新たな産業を生み出し、持続可能な成長をもたらす形で運用されるのであれば、それは素晴らしいことです。しかし、現状では「いかにして他の自治体から税収を奪うか」という戦略が中心になっており、本質的な地方創生とは言い難いのではないでしょうか。
ふるさと納税に限らず、これからの時代に必要なのは「奪い合い」ではなく「新たな価値の創造」だと考えています。誰かの利益が別の誰かの損失になるのではなく、経済全体が成長し、すべての人にとってプラスになるような仕組みを目指していきたい。そんな価値観を持った人たちと、一緒に仕事ができる未来を願っています。