書籍【冒険する組織のつくりかた~「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法】読了
著者は組織開発で豊富な経験を持つ専門家。確かに「軍事的世界観」から「冒険的世界観」への転換が必要だ。
これは私自身も肌で感じていることだ。
今までの組織の在り方を変えていかなければ、これからの時代には到底対応できない。
今までの「軍事的世界観」では、すでに限界を迎えていたにも関わらず、新しい組織の形に作り変えるところまで至らなかった。
当社内は今でも、上意下達、トップダウン文化が根強く残っている。
当然何十年間もそれで事業を継続してきたのだから、簡単には変えられない。
トップダウンでもきちんと機能していれば、なんの問題もなかったのだが、今はそういう時代ではない。
あまりにも環境変化は激しいし、そもそも事業の複雑性が日々増している。
トップが正しく判断して、正解が出せればよいが、もはやそんな状況ではないのは明らかだ。
戦況が刻々と変化するような中で、現場で臨機応変に対応していくしか方法はない。
現場は現場で、目の前の事件の解決だけにどうしても注視してしまう。
本来は高い視座で、中長期の視点に立って判断することが大事なのだが、それを現場に求めるのも無理がある。
経営側が現場をサポートする体制が整っていれば理想的だと思う。
経営は現場に権限委譲しつつ、適宜適切なアドバイスをする。
相互のコミュニケーションを、如何に密に取っていけるかがポイントだ。
そんな組織体をどうすれば構築できるのか。
確かに経営と現場が一体となって、ワクワクしながら仕事をできることは望ましいだろう。
まさに「冒険する組織」である。
本書では「軍事的世界観」から脱却し、「冒険的世界観」を構築していこうと説いている。
そのための手順まで丁寧に解説してくれている。
確かにこの通り進めていけば、組織の変革はできそうな気がする。
しかし、実行するのは本当に難しい。
ダイエットしたくても、どうしても食べてしまう。
体を鍛えようと思っても、どうしてもサボってしまう。
それと同じで、頭では分かっていても、継続して実行するのはことさら難しい。
しかも自分だけの努力ではなく、組織全体でこれらをコツコツと実行していかなければならない。
やはり、まずは経営トップから、これらを地道に実行していく必要があるだろう。
やって見せて、メンバーに対しては、しつこいぐらい言い続けなければいけない。
それぞれは小さな行動かもしれないが、実際に実行しなければ意味がない。
「何となく体質が改善した」ということはあり得ないのだから、本気で取り組むことが何よりも大事なことだ。
すぐに変革できるというほど、組織に蔓延る課題は簡単ではない。
当社の場合も、長年の親会社子会社間の関係性があって、子会社である当社側はあくまで実行側。
自ら考えて動くというよりも、言われてから動くという受け身体質が、長年の関係性で染み付いてしまっている。
そこを変えていきたいのだが、これが容易ではない。
自分たちがワクワクするような、探求したくなるような組織に変えていきたい。
仕事を受け身ではなく、自ら楽しめるような形に。
そして我々自身が、好奇心を刺激する仕事を生み出せるように。
大きな目標を掲げるのも大事。
自分たちのチームアイデンティティを言語化するのも大事。
対話が何より重要で、その場づくりが大事。
暗黙知と形式知の循環をマネジメントするのは、なによりも大事。
それぞれを実行するのは、本当に難しい。
しかし、それこそ冒険するかの如く、目の前の壁を一つずつ攻略していく。
まずはそこからなのだろう。
数々示された方法論の中でも個人的に面白いと感じたのは、「会社総会に命をかける」というものだ。
敢えて「ハレの場」を作るのだと説いているのだが、私のような50代にとっては逆に意外に感じた。
私が会社に入った30年以上前は、それこそ「ハレ」が多かったような気がする。
(頻度が多ければ「ハレ」とは言えないかもしれないが)
新年明けて会社に出社すれば、朝から宴会状態だった。
仕事している人なんておらず、当時は「何が仕事始め?」なんて思っていたくらいだ。
さらに新年に限らず、季節ごとのイベントがあった気がする。
花見をするとなれば、場所取りから宴会の手配まで行う訳だし、年に1回くらいは部門単位での旅行会のようなものがあった。
大きなプロジェクトが終われば打ち上げするし、その飲み会の手配までが仕事のセットだった。
私自身、当時は参加することを面倒と思っていたし、こんな風習は無くなればよいと思っていた方だ。
無駄な経費は無くそう、という号令の下に開催頻度が少なくなり、時代とともに自然消滅していく訳であるが、こういうイベントは復活しないものと勝手に思っていた。
本書で言っている「全社総会」は、かつての花見や旅行会とは全然違うものだと思うのだが、「みんなで集まって、思いを共有する場」が求められているというのは、一周回って時代が必要としているからだろう。
社内の若い人の声を聞いても「もっと若手が集まりやすい、部門を跨いだ社内イベントを開催できないか」などの意見が頻繁に出てくる。
これを良かれと思ってオジサンが企画して、昭和のノリで実施するのはNGだ。
今の若手に企画と実行まで権限委譲すれば、時代に合わせた形式で行ってくれるだろうと思う。
交流の場での対話は、「価値観のすり合わせ」としても大きく機能する。
様々な人たちが集まって組織を構成している訳なので、価値観が異なるのは当たり前。
しかしその価値観が、会社の価値観とズレていたら双方ともに困る訳だ。
経営トップが本気で会社の価値観を語る場が「全社総会」だ。
そこに全力を傾けるのは、ある意味で正しい。
日常の場ではなく、敢えてハレの場として演出することで、ワクワク感も醸成されていく。
冒険をすることは、簡単ではない。
安定を求める人からすれば、冒険の一歩を踏み出すのは相当にハードルが高い。
仮に冒険志向が強いとしても、実際に冒険を実行することは全く意味が異なる。
本当に信頼できる仲間たちが揃っているかは、冒険の最低条件と言える。
冒険に繰り出す船だって大事だ。つまり、環境を整えることも、冒険の最低条件。
その上で何をどう積み上げていくか。
本書に記載されたKEY「鍵」を順番に実行せよということであるが、これこそ冒険感覚で一つずつクリアしていくしかない。
数百年前の大航海時代に戻ったような感覚であるが、この感覚は正しいのかもしれない。
インターネットがバーチャル世界を大きく拡張したために、次の新大陸発見を夢見て旅立つようなものだ。
当時だって、世界が変わる感覚があったのだろう。
そして今、これから、世界が大きく変わっていくのは間違いない。
そんな世界の荒波を、ワクワクしながらポジティブに乗り越えていく。
まずは発想を変えることこそが、必要なのかもしれない。
(2025/2/28金)