書籍【まだ間に合う 元駐米大使の置き土産】読了
国家を背負って仕事した人には、独特の苦労があったのだろう。経験者から現代日本を見て感じた提言は深い。
タイトルは「まだ間に合う」。
この言葉の意味は深い。
誰を想定して書いた書籍だろうと考えてしまうが、色々と想像ができる。
「失われた30年」も聞き飽きたフレーズだが、国際的なプレゼンスが低下し続け、ついに先進国から転落かと懸念される日本国家に対して、「まだ間に合う」と言っている風にも読み取れる。
もしくは、私のような50歳を優に超え、社会人としても終わりが見えている老年層に向けて「まだ間に合う」と言っているような気もする。
内容を読んでみると、若者に向けての心構えを説いた部分も数多くあった。
学校を卒業し社会に出て安穏としているところに、「まだ間に合う、頑張れ」と。
著者からしたら、「このままでは、私は負け組かも」と、漠然に感じている人たちに対し、「まだ間に合う」と広くエールを送っているのかもしれない。
若年層も老年層も関係なく、国家を背負う官僚の後輩たちに向けた言葉にも思えた。
具体的なスキル部分でのアドバイスも多く、外交官の後輩の方々には、役に立つ部分が多くあるだろう。
本書を読むと、総じて「準備がすべて」と論じている部分が多かった気がする。
ついつい自分の経験だけで仕事をしようと思ってしまうが、さすが外交官の仕事は、その歴史自体が非常に長い。
先人たちの積み重ねたノウハウが蓄積されているのだから、あらゆることにおいて前例を確認することは重要なことだ。
最近は「前例主義」を否定する風潮もあるが、国家間の取引においては、過去にどんなやり取りが行われたかは非常に重要だし、それを知らずして外交など出来るはずがない。
私自身は民間の仕事しかしていないので、そこまで前例を調べるという癖がついていないが、逆に「ノウハウを溜める」ということを意識しながら仕事することは大事なのだと、改めて感じている。
自分の仕事の結果が、将来の人たちにとって、どう役に立つのか。
そういう意識で具体的に仕事を行うのは、案外難しい。
当然成功ばかりではないだろうし、むしろ大きな失敗こそ将来のために共有する必要があるかもしれない。
仕事の一つ一つが、自分ひとりだけの糧ということではなく、組織の知恵として蓄積されていく仕組みは、重要な意味がある。
今は便利なツールが沢山あるにも関わらず、きちんとデータを残してなかったり、データはあってもフォルダや階層などが不規則で探せなかったりすることがある。
もちろん、便利ツールを使っても形式知化されない「暗黙知」こそ、いかに後輩に伝えていくかが大事。
次につながることを意識したやり方で、仕事を遂行する。
言葉で書くのは簡単だが、実践することは容易ではない。
今思えば、すでに引退した諸先輩方の暗黙知は、もう永遠に再現されることはない。
そう考えると勿体なく思えてしまう。
「まだ間に合う」とは、これらの意味も含んでいるのかもしれない。
最近は自分の年齢もあって、殊更「時間の流れ」が気になってしまう。
いたずらに焦ってもしょうがないのだが、「まだ間に合う」という言葉に安心するのもよろしくない。
この言葉の意味は、「急ぐな」ということではなく、「諦めるな」と解釈した方がいいだろう。
世界は劇的に変化している。
感覚的には、昔よりもその変化のスピードが速まっている気がしている。
その中で、日本国家を取り囲む状況も、目まぐるしい変化に巻き込まれている。
その流れをくみ取って、上手に波乗りすることができれば、「まだ間に合う」のかもしれない。
これからの未来、世界はどう変化していくのだろうかと考えてしまう。
その変化の中で日本はどうなるのか。
そして、自分はどうしていくのか。
今この年齢だからこそ、余計に考えてしまう。
「過去の歴史も含めて、きちんと下調べして、準備を怠らない」
本来は我々のような年輩者が、若者たちに教えることであるが、翻って本当に自分自身はできているのか、と自問してしまう。
改めて、これからの人生についても考え直すことが「まだ間に合う」第一歩なのだと感じた。
(2025/2/26水)