書籍【ミンツバーグの組織論~7つの類型と力学、そしてその先へ】読了
巨匠ミンツバーグ教授による組織論。今まで組織構造の解説書籍を数多く読んできたが、これが原点だったか。
そういう意味では、基本的なところが書かれているし、本書から派生していく数々の組織理論を他の書籍で先に読んでいたためか、「どこかで見た理論だな」という既視感があった。
私もすでに50代後半に突入し、長年会社員を勤めてきた間に染み付いたものがあるのだろう。
「理解したつもり」という思考が、実は一番良くないのは分かっている。
しかし、それを自覚するのは、本当に難しい。
どこかで見た組織論だと評するのもおこがましい限りだが、「原点」故に目新しさが感じられなかったのは事実。
ただし、ここは基本のキに立ち返り、自らの社会人人生で経験した各組織を振り返りながら見つめ直してみようと思った。
改めて思い返してみると、自分が所属した数々のチームもバラエティに富んでいたものだ。
自分がメンバー側の時代もあるし、もちろんリーダーやマネジャーを経験したこともある。
大きな成果を出せて自信に繋がった組織もあれば、メンバーは優秀にも関わらず、仲たがいして空中分解に近い形の組織もあった。
組織論という切り口で、成果を出せたかどうかの基準で振り返ってみるのも、非常に面白い。
過去の若い時代に、これら理論を理解していて、実践してみたら上手くいったのだろうか。
そんなことを想像してみるだけで、これは結構学びになるものだ。
本書では、組織の形態について、大きく4種に分けられると解説をしているのだが、これは実体験と照らしてみても違和感はない。
①パーソナル型、②プログラム型、③プロフェッショナル型、④プロジェクト型
私はバックオフィス部門の経歴が長かったため、②の組織に馴染みがあるが、私の所属する会社の業界自体は③④で機能している部分が大きいため、そこに対してもアレルギーは感じない。
本書でも、明確に4種に分かれる訳ではなく、実際はそれぞれが重なり合ったり、交互に行き来したりもする訳なので、ここまで単純な話ではないだろうと思う。
これらは機能で特徴を分類しているが、いずれにしても「文化の土台」があるのだという。
①パーソナル型は分かりやすい。
文化も何も、カリスマ経営者がいて、その社長が独裁者のごとく全てを決めていく。
社長の考えによって、部下は振り回される訳であるが、その「社長の考え」こそが、ズバリ企業の文化そのものだ。
こだわりの料理を提供している飲食店などは分かりやすい例であるが、それに留まらない。
大企業であったとしても、カリスマ経営者が一代で築いた会社であれば、その社長の生き様そのものが企業文化として蓄積されていることが多いと思う。
当然、その良し悪しはある訳であるが、創業時の理念も含めて、受け継がれる大事な文化は確実に存在する。
人間が集まって形成される「組織」という形態は、非常に奥深い。
人間1人1人の意志が、その組織に対してどのように影響を与えているのか。
組織全体が一つの意識のようにまとまる時もあるが、それは一体どういうことなのか。
今まで上手く機能していた集団が、たった1人メンバーが入れ替わっただけで機能不全に陥る場合もある。それはなぜなのか?
「組織」と聞いて、すぐにイメージしやすいのは、軍隊かもしれない。
1人1人高度に訓練して実力を付けたとしても、結局戦争に勝たなければ意味がない。
集団として最強になるために、どういう組織を構築し、機能させなければいけないのか。
人類史において、戦争の歴史は非常に長いため、ノウハウが多く蓄積されている。
会社などの組織も、ベースは軍隊から来ているかもしれないが、それも時代とともに、少しずつ変化しているのを感じてしまう。
端的に言えば、④のプロジェクト型が今後は主流になりそうな気がしている。
DAOなどは正にプロジェクト型の典型例だが、ブロックチェーン技術の発展によって、これら組織形態を作り易くなったのは事実だ。
ファンコミュニティ。オンラインサロン。
名称は様々ではあるが、かつてのような上意下達の軍隊組織とはどうも異なる。
それぞれが自主的に、自分の価値観と共感する心地よい仲間たちとチームを組んで、目的達成に向けて協力していく。
大昔の芸能人を応援するファンクラブと、今のアーティストを推すファンコミュニティは、だいぶ様相が異なると思う。(ファンクラブの形態が進化しているとも言える)
「好きだから応援する」というだけに留まらず、そのアーティストの将来の夢に共感し、その実現を、自分の夢のように重ねて支えていく。
「共犯」という言葉がよく利用されるが、まさに「共に」という意味が強いことが現代的らしい。
今後は様々な組織形態が「共に」の要素がより強化されていくはずだ。
「この組織に所属していて大丈夫だろうか」
「この人たちと一緒にいて、働けるだろうか」
この感覚を優先することは、今では当たり前の感覚であるが、組織を運営する経営側が意識する必要があるだろう。
だからストーリーを語らなければいけないし、ビジョン・パーパスを掲げる重要性があることも辻褄が合う。
大昔は結婚すら親や血縁が決めていたし、就職先だって他人に決められたところに入社していた。
そして一度そこに入れば「郷に従え」で、滅私奉公のごとく尽くしに尽くした。
その要素は今ではほとんどなくなっているが、今後もより変化が強化されていくことは間違いない。
組織の形態を、「クラフト(技)」「アート」「サイエンス」の三軸で分析する手法は面白いと感じた。
これは自己分析にも応用できる。
自分なりの解釈であるが、「クラフト」が「行動」寄り、「アート」が「感情」寄り、「サイエンス」が「理論」寄り、と見てみると理解が深まった。
人間なので、どこかに偏るのもバランスは悪いが、その人の特徴は非常に出やすい。
会社の部門によっても、クラフト・アート・サイエンスという3軸のバランスを意識するのは必要かもしれないと感じる。
その部署、その仕事に向いた3軸の交差点は必ずあるはずだからだ。
原点とも言える組織論であるが、基本だからこそ、応用に展開しやすい。
組織形態に唯一の正解はないのだが、大いに参考にできる。
(2025/2/24月)