書籍【映画ビジネス~なぜ今、ハリウッド映画よりも日本映画のほうが儲かっているのか?】読了
エンタテインメントのビジネスは、一般の人には非常に分かりづらいと思う。
業界の中にいると当たり前の慣習が、外から眺めると非常識に見えたりする。
逆もまた然り。
だからこそ「そこが魅力」とも言えるのも事実だったりする。
これでもだいぶ薄れてきたのだが、「ザ・芸能界」の怪しさは、今でもゼロにはなっていない。
華やかに見える裏側の、ドロドロした部分に魅力を感じて、その世界にハマってしまう人もいるくらいだ。
身体に悪いと分かっていても、酒や煙草を止められないのと似たようなものか?(違うかも?)
元々は「興業」から始まったとされる映画業界。
それが昭和の時代には、テレビ局やレコード会社、芸能プロダクションを巻き込んだ「ザ・芸能界」に発展し、世の中を席巻した。
巨額の利益を、ごく限られた人たちの世界で分配していたのだから、その関係値は非常に濃密で、「一言さんお断り」「裏切者は許さない」という暗黙の掟が構築されたのも必然と言えたのかもしれない。
そして今、そんな「ザ・芸能界」が、インターネット・スマホ・SNS時代になって、大きく開かれて変化しようとしている。
オープンになればなるほど、怪しい部分はドンドンと浄化され、急ピッチで健全化が図られていく。
今でも自信を持って「真っ白」とは言えないのかもしれないが、間違いなく昔の形態とは違ってきている。
そして今の時代は「ザ・芸能界」よりも「エンタメビジネス」と言った方がしっくり来る。
時代に合わせて、変化せざるを得ない状況なのは間違いない。
そういう過去からの、変化の歴史があったとしても、「エンタメビジネス」の本質は外側からは理解しづらい。
今でも根底に流れる本質が見えるからこそ、その奥深さに感銘し、ハマっていくのだと思う。
普通のビジネスと違う点は様々あるが、大袈裟ではなく、それが人々の人生に影響を与えるものだからだろう。
単純なお金儲けだけを考えると、エンタメビジネスはとても非効率だ。
どんなにヒットメーカーであろうと、作品の打率が3割あればすごいこと。
投資に対してのリターンが低すぎる。
下手をすると、1作の大ゴケで、会社が倒産してしまうほどの損失を出してしまう。
さらに言えば、山のものとも海のものとも言えない企画の段階で、投資を決定する必要がある。
キャッシュアウトが先行して、資金が回収されるのは映画が公開されてから数ヶ月後。
配信や放送など別次利用の収益が入るのは、さらにその後だ。
キャッシュフローの効率も極めて悪いのが、エンタメビジネスの難しさである。
そんな難しい仕事でありながら、人生を壊してしまうほど悪魔的に魅力がある仕事とも言える。
華やかな一面が、奇跡を感じるかのように美しい面があるからだ。
その美しさに魅了され、人生を懸けてのめり込んでしまう。
それだけに、非常に閉ざされた世界であるし、その仲間内に入ることが、実はものすごく大変だった。
しかし時代の流れによって、その辺りも大きく変化しているのは事実である。
今後エンタメビジネスがどう変化していくかを考えると、なかなか面白い。
様々な識者の論説やテクノロジーの進化を勘案すると、今後の未来がどうなるかは、ある程度帰結される点が見えてくる。
本書はそれらの話というよりは、まさに映画ビジネスという「基本のキ」、エンタメビジネスの中の一部について、より掘り下げた解説をしてくれている。
前述の通り、一言でエンタメビジネスと言っても、その幅は非常に広い。
本書に代表される映画もそうだが、音楽、演劇、テレビドラマ、テレビバラエティ、アニメ、などなど、ジャンルでも全く異なるビジネス展開がある。
それらが、世界を巻き込むインターネット・スマホ・SNSの時代にどう展開されているのか。
全体を理解することは、これは相当に難しい。
エンタメというと、どうしても「面白い番組を作りたい」や「大きなイベントをやりたい」という、クリエイティブの部分に目が行ってしまう。
しかし、我々はビジネスマンである以上、それら手法はどうあれ、ビジネスとして収益を成り立たせる必要性がある訳だ。
意外とこのビジネス部分、端的に言えば「ビジネスモデル」であるが、それを理解している人が同じ業界内であっても少なかったりする。
これはエンタメのビジネスモデルそのものが、非常に複雑だからだ。
パッと見の印象だけでは、なかなか収益の本質が見えてこない。
そういう意味でも、実は「映画ビジネス」こそが基礎中の基礎。
最初にエンタメのビジネスモデルを学ぶ上で、最適な教材だと思う。
業界のルールは特徴的かもしれないが、一般の方も知っていて全く損はない。
解説されると、意外に感じる部分も見えてくるだろう。
基礎を学ぶことがどれだけ大事なのか。
館アベレージも、上映回数も、ブッキングについても、解説されると、映画ビジネスの仕組みがよく分かる。
少なくとも、公開館数と映画制作費・PA費、興行収入の関係などは頭に入れておくと便利だ。
これからは世界が益々エンタメ化していく。
限られた業界内に止まらず、他の業界も巻き込んでエンタメ化が広がっていく。
なぜ自治体が、ゆるキャラを展開しているのか。
成功している自治体と、失敗している自治体の差は何なのか?
旅行業はすでにエンタメ業界の一部と言ってもいいかもしれない。
教育だって、間違いなくエンタメ化が進んでいく。
自動運転の世界では、エンタメが非常に重要なパーツとなる。
もしかすると医療だって介護だって、エンタメ的世界が広がっていくのかもしれない。
「エンタメ」とは何なのか?
これからビジネスでは非常に重要となる知識だ。
まずは基礎中の基礎である「映画ビジネス」から学んでいくことをお薦めする。
本書は映画ビジネスの仕組みについての解説であるが、他業界の方こそ読んでほしい。
自身のビジネスに、エンタメの世界観がどう融合されていくのか。
そんなことも想像しながら、学んでほしいと思っている。
(2025/6/5木)