生成AIで「書くプロセス」を可視化する──実務と創作の現場から
「AIに仕事を奪われる」から「AIと共創する」へ。ライターが見つけた新しい働き方
書くプロセスが丸見えになった日
「この章立て、なんか違和感があるんですよね」
クライアントからのフィードバックを受けて、私は頭を抱えていました。3万字の書籍構成案を練り直すとなると、また一から組み立て直し。以前なら丸一日はかかる作業です。
でも今は違います。ChatGPTにインタビュー音声の要点整理を依頼し、複数の章立てパターンを生成。読者視点での「抜け漏れ」チェックまで機械的に行えるようになったからです。
3時間後、新しい構成案がクライアントの手元に。
「これです、求めていたのは!」
この瞬間、私は確信しました。生成AIは「書く仕事を奪う敵」ではなく、「書くプロセスを見える化してくれる相棒」なのだと。
実務の現場:情報を「構造」に変える技術
私が主に担当するのは、経営者インタビューや書籍の構成・執筆といった長文案件。ここでAIが威力を発揮するのは、実はライティングそのものよりも情報設計の段階です。
具体的なワークフロー
インタビュー直後
- 音声データをAIで要点抽出・カテゴリ分け
- 読者ペルソナに合わせた複数の章立て案を生成
- 各章の「読了後に読者が得られるもの」を言語化
構成段階
- AIに「この構成で伝わりにくい部分はどこか?」を質問
- 論理の飛躍や情報の重複を客観的に指摘してもらう
- 編集者との打ち合わせ前に論点を整理
執筆段階
- 最終的な文章は必ず自分の手で書く
- AIは「この表現、読者に誤解されないか?」の壁打ち相手として活用
結果として、クライアントとの認識齟齬が激減し、修正回数も大幅に減りました。何より、自分の思考プロセスが可視化されることで、書き手としてのスキルアップにもつながっています。
創作の現場:感情と構造の新しいバランス
小説執筆では、もう少し繊細なアプローチが必要です。物語の「魂」の部分──テーマ、感情の核、文体──は絶対に人間が握る。一方で、構造面でのAI活用は驚くほど効果的でした。
最近の実験例
キャラクター設計
- 主人公の価値観や行動原理を設定した後、AIに「この人物が取りそうにない行動」を列挙してもらう
- 意外な組み合わせから、新しい物語展開のヒントを得る
構成の検証
- 三幕構成の各要素がバランス良く配置されているかAIにチェックしてもらう
- 「読者がこの章で疑問に思いそうなこと」を事前に洗い出し
推敲プロセス
- 文章のリズムや論理構造の改善提案を受ける
- ただし、最終的な判断と書き直しは必ず自分で行う
この結果、**「人間が生み出す感情の厚み」と「AIが提供する視点の多様性」**が同時に作品に流れ込み、読者から「これまでにない読み応えがある」という感想をもらえるようになりました。
「外部化された頭脳」としてのAI
一連の実験を通して見えてきたのは、AIの本当の価値は「代筆」ではなく**「思考の外部化」**にあるということです。
頭の中でモヤモヤしている考えを言語化し、別の角度から光を当ててくれる。一人では気づけない盲点を教えてくれる。そんな「思考のパートナー」として機能するとき、AIは最も力を発揮します。
これからの展望:書く技術を民主化する
現在、これらのノウハウを体系化し、ワークショップや記事の形で公開する準備を進めています。目指しているのは**「書く技術の民主化」**です。
生成AIの登場により、これまで一部のプロだけが持っていた高度な情報設計スキルが、より多くの人にとって身近になりました。この変化を活かして、「伝える力」を底上げできる仕組みを作りたいと考えています。
書くことの未来へ
「AIに仕事を奪われる」という不安の声もよく聞きます。でも実際に使ってみて分かったのは、AIは人間の創造性を代替するのではなく、増幅する存在だということ。
人間だからこそできること、AIだからこそできること。その境界を探りながら、これからも言葉の可能性を広げていきます。
山中勇樹 | ライター・小説執筆者
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