前回の記事の最後に、こう書きました。当社は単価×70%=月給という計算式を、創業以来9年間変えずに運用してきた、と。
公開後、あらためて思ったことがあります。数字を掲げること自体は、誰にでもできます。難しいのは、続けることです。今回は、なぜ小さなSES会社が9年間この数字を変えずに済んでいるのか、その仕組みを書きます。自慢話ではなく、構造の話です。
還元率には、常に「下げる圧力」がかかる
まず前提として、還元率は放っておくと下がる性質のものです。
単価が下がる局面があります。案件が途切れて待機が発生することもあります。採用にお金をかければ、その分はどこかから捻出しなければなりません。会社が株主を持てば、利益還元の要求が加わります。売上が伸び悩んだ年に、経営者が最初に目をつけたくなるのが「エンジニアへの還元」です。ここを1%削れば、利益は目に見えて改善しますから。
つまり「還元率を変えない」とは、意思の問題である以上に、この圧力を構造的に受けない会社を作れているかという設計の問題です。
変えずに済んでいる4つの構造
当社の場合、答えは4つあります。
1. 非上場であること。 株主への利益還元義務がないため、還元率を下げて利益を積み増す動機がそもそも存在しません。会社の成長速度より、約束の維持を優先できるのは、外部資本を入れていないからです。
2. 広告費を最小化していること。 採用広告に年間数百万円を投じれば、その原資は還元率のどこかに跳ね返ります。当社は大量のスカウト配信や有料広告で母集団を集めるのではなく、こうした記事や、計算式の全公開そのものに候補者への説明を委ねています。実は、いまお読みいただいているこの記事も、広告費を還元率に回すための仕組みの一部です。
3. 会社を小さく保っていること。 社員数名の当社には、人事部も広報部も採用チームもありません。バックオフィスの仕事は代表の私が(専門家と最近はAIの力も借りながら)担っています。管理部門の人件費は、エンジニアの単価から捻出される固定費です。ここを最小にすることが、70%を守る最大の防御になっています。
4. 代表が現役の技術者であること。 私自身がいまも客先常駐で稼働しているため、自分の単価と給与にも同じ計算式が適用されます。制度を作る側と適用される側が同一人物である会社では、還元率を下げる判断は自分の給与を下げる判断と同義です。約束が破られにくい構造とは、破ると設計者自身が痛む構造のことだと思っています。
「変えない」ことは複利で効く
賞与や昇給で後から調整する仕組みにしなかったのも、同じ理由です。月給を低く抑えて年末に賞与で帳尻を合わせる方式は、会社側に「調整の余地」を残します。その余地は、経営が苦しい年に必ず使われます。計算式を一行にして公開してしまえば、調整の余地ごと消せます。
そして、変えない期間が長くなるほど、この約束は強くなります。社員にとっては「来年も同じ計算式である」ことを疑う理由がなくなり、候補者にとっては「入社後に条件が変わるのでは」という、SES転職で最も多い不安への回答になります。1期目の70%は宣言にすぎませんが、10期目の70%は実績です。ここだけは、後発の会社がお金でも情熱でも買えない部分だと考えています。
正直に言えば、代償もある
この構造には代償があります。広告費をかけないので、会社は大きくなりません。管理部門を持たないので、急拡大もできません。当社は創業9年で社員数名のままです。「勢いのある会社で働きたい」という方には、間違いなく向いていません。
それでも、規模と引き換えに約束を守り続ける会社が、業界に一つくらいあってもいいと思っています。
数字の大きさではなく、数字が続いているかどうか。会社選びの際は、ぜひそこを見てください。当社については、計算式も給与シミュレーターもサイトで公開していますので、答え合わせはいつでもどうぞ。