医療職にとって、学び続けることは仕事の一部だと思います。
新しい知識を学ぶ。
論文を読む。
研修や学会に参加する。
臨床で生まれた疑問を調べる。
私自身も、理学療法士として病院で働いていた約10年間、臨床だけでなく研究や学会発表、論文執筆などに取り組んできました。
学ぶこと自体が嫌だったわけではありません。
むしろ、新しい知識を知り、それを臨床で考えることは好きでした。
ただ、長く続けるほど一つの疑問も持つようになりました。
これだけ時間を使って学んだことは、自分の中にどれくらい残っているのだろう。
そして、
学んだことを、その場限りで終わらせない方法はないのだろうか。
この問題意識が、現在の私の活動にもつながっています。
医療職の学びは「インプット」で終わりやすい
論文を一本読む。
研修を受ける。
新しい知識を調べる。
その瞬間には「勉強になった」と思います。
しかし数週間、数か月経つと、細かな内容までは思い出せなくなることがあります。
もちろん、すべてを記憶する必要はありません。
問題だと思うのは、
せっかく使った時間や得た知識が、次に使える形で残っていないこと
です。
医療職の自己研鑽は、多くの場合、自分自身の努力によって成り立っています。
だからこそ、その学びを一度きりのインプットだけで終わらせるのは、少しもったいないと感じています。
「発信すること」だけがアウトプットではない
アウトプットという言葉を使うと、
「SNSで発信しなければいけない」
と思われることがあります。
私はそう考えていません。
SNSは一つの方法にすぎません。
例えば、一つの論文を読んだ後に、
自分なりの要点を整理する。
院内の勉強会で使える形にする。
後輩へ説明できるようにまとめる。
ブログや記事の材料にする。
臨床疑問として残し、次の文献検索につなげる。
研究テーマを考える材料にする。
これらもすべてアウトプットです。
大切なのは、人に見せることではありません。
自分が得た知識を、もう一度使える状態にすること。
私はそれが重要だと思っています。
同じ学びを、一度で終わらせない
例えば、興味のある論文を一本読んだとします。
その論文から得た内容を自分の中だけで終わらせれば、その学びは一度の経験で終わります。
しかし、
「この研究のポイントは何だったか」
「自分の臨床ではどこを考えるべきか」
「院内で共有するとしたら何を伝えるか」
「まだ分かっていないことは何か」
と整理しておけば、同じ学びを何度も使うことができます。
一つの論文が、
SNS投稿の材料になる。
勉強会の材料になる。
後輩への説明に使える。
次に読む論文を決めるきっかけになる。
研究テーマの着想につながる。
こうなれば、自己研鑽は単なる消費ではなく、少しずつ蓄積されていきます。
学ぶ量を増やすより、学んだものを残す
情報が少なかった時代とは違い、今は新しい情報を探そうと思えば、いくらでも見つけられます。
論文もあります。
医療ニュースもあります。
動画もあります。
SNSにも多くの情報があります。
生成AIを使えば、さらに大量の情報へ短時間でアクセスできます。
だからこそ、これから重要になるのは、
どれだけ多くの情報を集めたか
だけではないと思います。
何を選んだのか。
どう整理したのか。
何を自分の中に残したのか。
そして、それを次にどう使ったのか。
こちらの方が重要になっていくのではないでしょうか。
学ぶ量を無制限に増やすことには限界があります。
仕事もあります。
家庭もあります。
休む時間も必要です。
自己研鑽のために、生活のすべてを犠牲にすることが正解だとは思いません。
だから私は、
「もっと勉強する」だけではなく、「すでに学んだものをもっと活かす」
という方向にも目を向けたいと考えています。
AIは、学ばなくてよくなるための道具ではない
生成AIの登場によって、情報整理にかかる負担は大きく変わりました。
論点を整理する。
文章の構成を考える。
別の視点を出してもらう。
学んだ内容を違う用途へ整理し直す。
こうした作業では、AIを活用できる場面があります。
一方で、
「AIがまとめてくれたから、自分は理解しなくてもよい」
とは考えていません。
特に医療に関する内容では、元の情報を確認し、専門職として内容を判断する工程が欠かせません。
K-Brain Studioでも、AIの出力をそのまま最終成果物として扱うのではなく、医療職自身が確認することを前提としています。
AIによって学ぶことを手放すのではなく、
整理や変換にかかる負担を減らし、人が考えるところに時間を使う。
私は、そういう使い方をしたいと思っています。
「自己研鑽を自己消耗で終わらせない」
合同会社K-Brainで、医療職向けのK-Brain Studioをつくった背景にも、この問題意識があります。
掲げている言葉は、
「自己研鑽を自己消耗で終わらせない」
です。
自己研鑽そのものを否定したいわけではありません。
むしろ、医療職として学び続けることは必要です。
だからこそ、
時間を使って読んだ論文。
考え続けた臨床疑問。
参加した研修。
自分なりに調べたこと。
そうした一つひとつを、その瞬間だけで消費するのではなく、次に使える形として残したい。
現在のK-Brain Studioでは、論文や医療ニュース、臨床疑問を、SNS投稿、院内講義、記事、研究・学会発表の材料などへつなげることを目指しています。
ただ、私が本当に実現したいのは、単にアウトプットを増やすことではありません。
学んできたことは、その人の資産になる
10年間臨床をしてきた人には、10年間で積み重ねたものがあります。
研究に取り組んできた人にもあります。
新人として悩みながら調べてきた人にもあります。
日々の臨床で疑問を持ち、考え続けてきたことにも価値があります。
それらは、資格欄だけでは見えません。
履歴書にもすべては残りません。
だからこそ、自分が何を学び、何を考え、それをどう活かしてきたのかを少しずつ形にしておく。
その積み重ねが、やがてその人自身の専門性になるのではないかと思っています。
私自身も、理学療法士として臨床だけを続けていた頃には、今のような働き方を想像していませんでした。
しかし、臨床、研究、医療IT、講師活動など、それぞれの経験を振り返り、別の形へつなげてきたことで、現在の活動があります。
だからこそ医療職の自己研鑽も、
「勉強した」で終わるのではなく、「何が残ったか」まで考える。
学びを、次の学びへ。
学びを、誰かへ伝える材料へ。
学びを、自分自身の専門性へ。
自己研鑽を自己消耗で終わらせず、一つずつ自分の中に積み上げていく。
医療職の学びに、そんな選択肢を増やしていきたいと考えています。