前回は、約10年間勤めた病院を離れ、ヘルスケアITの世界へ進んだ理由について書きました。
臨床からITへ。
働く場所も仕事内容も大きく変わりましたが、医療から離れたという感覚はありませんでした。
むしろ、医療現場の中と外の両方を経験したことで、それまで別々に見えていた課題に共通点があることに気付き始めました。
その気付きが、合同会社K-Brainを設立するきっかけになりました。
医療現場には、活かしきれていないものがたくさんある
病院では、理学療法士として臨床だけでなく、研究、学会発表、論文執筆、後輩育成にも取り組んできました。
そこには、多くの知識や経験がありました。
一方、ヘルスケアITの仕事では、医療現場には診療や業務を通じて蓄積される膨大な情報やデータがあることを、別の角度から見るようになりました。
医療職が持つ知識や経験。
医療機関に蓄積される情報やデータ。
対象は違いますが、私には共通する課題があるように見えました。
価値がないのではなく、価値のあるものが十分に活かされていない。
知識を持っていても、個人の中だけで終わってしまう。
データがあっても、整理されなければ次の判断には使いにくい。
新しい技術が登場しても、その前の情報整理や運用方法が整っていなければ、安全に使うことは難しい。
この部分を仕組みとして支えることができないか。
そんなことを考えるようになりました。
組織の外でも、自分の経験は役に立つのか
病院勤務やヘルスケアITの仕事と並行して、健康教室や講師活動、キャリア支援、執筆などにも取り組んできました。
私にとって、こうした活動は単に仕事を増やすことが目的ではありませんでした。
自分が臨床や研究、ITの仕事を通じて身につけてきた経験が、所属する組織の外でも誰かの役に立つのか。
それを確かめる機会でもありました。
実際に活動してみると、医療職のキャリア、学び方、AIの使い方、情報整理など、自分が経験してきたことを必要としている人や組織がいることが分かってきました。
同時に、単発の活動だけでは解決できない課題も見えてきました。
一度話して終わるのではなく、繰り返し使える仕組みにする。
個人の経験だけに依存せず、他の人にも届けられる形にする。
そのためには、活動を一つの事業として整理する必要があると考えるようになりました。
そして、K-Brainを設立した
2026年5月、合同会社K-Brainを設立しました。
掲げた理念は、
「医療の知性をAIで支える」
です。
ここでいう「知性」は、AIそのものを指しているわけではありません。
医療職が積み重ねてきた知識や経験。
医療機関に蓄積されている情報やデータ。
現場で生まれる疑問。
研究によって得られた知見。
そうしたものを整理し、次の判断や行動につなげていくことを大切にしたいと考えています。
AIは、そのために使える手段の一つです。
AIに医療の専門性や最終判断を任せるのではなく、人が考えるための材料を増やし、活用しやすい状態をつくる。
それがK-Brainで取り組みたいことです。
SwitchとStudioは、同じ課題から生まれた
現在、K-Brainでは大きく二つの方向から取り組みを進めています。
一つは、医療機関向けの「K-Brain Switch」。
院内にある情報を、そのまま外部の生成AIへ渡すのではなく、目的に応じて必要な情報を選び、整理・構造化し、識別につながる情報に配慮しながら、人が確認した上で次の活用につなげるための仕組みです。
もう一つは、医療職向けの「K-Brain Studio」。
論文や医療ニュース、日々の臨床で生まれた疑問を、読んで終わりにするのではなく、SNS発信、院内講義、研究テーマの着想など、次のアウトプットへつなげることを目指しています。
対象は違います。
しかし、根本にある考え方は同じです。
持っている情報や経験を、そのまま眠らせない。
必要なものを選び、整理し、人が確認し、次の価値へつなげる。
臨床、研究、医療IT、講師活動など、それまで別々に経験してきたことが、K-Brainという会社をつくったことで一つにつながりました。
まだ、完成した会社ではない
K-Brainは2026年に設立したばかりです。
サービスも事業も、これから現場で検証しながら育てていく段階にあります。
だからこそ、最初から「AIで何でも解決できる」とは考えていません。
医療には安全性が必要です。
現場には、それぞれ異なる事情があります。
そして最後に判断するのは人です。
新しい技術を取り入れながらも、その前に必要な情報整理や確認を飛ばさない。
医療職の知識や経験も、医療機関のデータも、持っているだけで終わらせず次へつなげる。
理学療法士として医療現場で働き、研究に取り組み、医療ITの世界へ進んだからこそ見えてきた課題に、これからも一つずつ向き合っていきたいと思っています。