仕様書を受け取ってから開発に入る仕事を、私自身、長くしてきました。要件を整理する段階からご一緒する仕事と比べて、いちばん違うと感じるのは、質問が出るタイミングです。
仕様書をいただいてから入る場合、私たちは書かれている内容を正しいものとして作り始めます。たとえば「管理者は一覧を編集できる」と書かれていれば、そのとおりに実装するのが私たちの仕事です。ところが作っている途中で、管理者とは本部の方だけなのか、各拠点の責任者も含むのか、という疑問が出てきます。ご担当の方に確認をお願いし、ご担当の方は現場に確認する。答えが戻るまでの数日、手を止めるか、仮の前提で進めるかを選ぶことになります。仮の前提が外れていれば、作り直しです。
要件を整理する段階から入ると、同じ質問が、作る前に出ます。
この秋、高知工科大学の学内業界研究セミナーに向けて、学生がLINEから出展企業を探せるアプリ「セミナーナビ」を、大学と一緒に作りました。最初にご相談をいただいた時点で、仕様書はありませんでした。打ち合わせで多くの時間を使ったのは、画面の話よりも、大学として何を説明できないと困るのか、という話です。
そこから決まったことが二つあります。一つは、学生へのおすすめ企業を、生成AIではなく、所属や志望業種の一致を点数にする方式で出すことです。なぜその企業が表示されたのかを、大学が学生に説明できるようにするためでした。もう一つは、学生の氏名を集めないことです。便利さのために情報を持ちすぎると、大学として説明がつかなくなるからです。
もし仕様書に「AIでおすすめを表示する」と一行だけ書かれていたら、私たちはそのとおりに作っていたと思います。要件の整理から公開までは約5週間でした。この期間に収まったのは、こうした判断を作る前に済ませていたことが大きかったと考えています。
良いことばかりではありません。上流から入ると、最初の数週間、発注される側の皆さまにも打ち合わせの時間を割いていただくことになります。忙しい時期には、それ自体が負担です。仕様がすでに固まっていて、変える余地のない案件では、この違いはあまり出ません。
それでも、質問が後から出るのか、先に出るのか。プロジェクトの進み方は、ここでかなり決まるように思います。
皆さんのプロジェクトでは、「それは誰が使うのですか」という質問が、いつ頃出てきましたか。