2026年の診療報酬改定において、病棟薬剤業務実施加算1は「週1回 300点」の上位区分として再編され、病院経営におけるその重要性はこれまで以上に高まりました。
ここで改めて、実績要件を確認してみましょう。
- 直近3か月間で「薬剤総合評価調整加算」の算定回数が10回以上
- 直近3か月間で「退院時薬剤情報管理指導料」の算定割合が退院患者の4割以上
この新加算を取得する上で最大の鍵となるのが、「薬剤総合評価調整加算(250点)」の取得要件をクリアすることです。
「新要件が増えてハードルが上がった」「現場の薬剤師の負担が増えてパンクするのではないか」と難色を示す病院経営者や薬剤部長の声も聞こえてきます。
実際に日病薬が発表した届出状況を集計した結果を見ても、病棟加算の届出率は全体の27.7%(約1/4)まで増えているものの、その中で最上位の「加算1(300点)」を届け出ている施設は半数以下(全体の1割超)に留まっているのが現状です。
しかし、私の見解は明確です。
「一般病棟に内科があり、すでに病棟配置が取れている病院であれば、加算1は基本的に必ず取得できる」
私自身、病院勤務時代に「薬剤総合評価調整加算」を月に多い時で50件取得していた実績があります。現場で膨大な件数を回してきた経験から言えるのは、この加算に必要なのは「特別な手技」や「人手の増加」ではなく、業務のライン化だけだということです。
現場が恐れている「業務負担の増大」という認識を払拭し、加算1を確実に手に入れるために押さえるべき「3つの必須条件」を詳しく解説します。
条件1:定期的なカンファレンスの開始と「仕組み化」
1つ目の条件は、病棟における多職種カンファレンス、または医師・看護師・薬剤師間での定期的な情報共有の場を公式に機能させることです。
現場の薬剤師が最も懸念するのは「カンファレンスのために新しく時間を切り出さなければならない」という点ですが、ゼロから新しい会議体を作る必要は全くありません。
- 既存カンファレンスへの「10分枠」の組み込み すでに病棟で行われている回診や多職種カンファレンスの既存の枠組みに「薬剤師の報告・提案枠」を定常化させます。
- カンファ内容の「システム自動共有」の構築 加算取得には、カンファレンスでの内容を医師に共有することが何よりも重要になってきます。病床や特定の委員会はともかく、通常の病棟カンファレンスに医師が毎回参加することは現実的にほとんどありません。そのため、内容をいちいち個別に口頭報告して処方変更を促すやり方をしている医療機関が多いですが、それでは現場の業務負担が大きくなりすぎます。カンファレンスの記録や提案内容が電子カルテ等を介して自動的に医師へ伝わる「報告システム」の構築が必要です。
「新しく会議を増やす」のではなく、「既存の多職種連携の場に薬剤師の介入ラインを乗せる」だけで、業務負担を増やすことなく要件を満たすことが可能です。
条件2:持参薬鑑別からカンファレンスまでを「3日以内」に設計
2つ目の条件は、持参薬鑑別の開始からカンファレンス、または医師への処方提案・情報提供までのタイムラグを「3日以内(72時間以内)」に抑えるプロトコルを確立することです。
持参薬鑑別自体は、どの病院でも日常的に行っている業務です。ネックになるのは「鑑別してから医師や多職種へフィードバックするまでのスピード」です。
事実、一般病棟における入院から退院までの期間は「10日前後」のところが多いため、カンファを実施して減薬提案し、減薬が開始されてから効果判定に1週間の時間を要することを考えると、「入院からカンファ実施まで3日以内」というのは理にかなっているというより、むしろ最低ラインのスピード感と言えます。
- 入院初日の「鑑別+初期評価」の同時処理 持参薬を預かって鑑別業務を行う際、ただ薬剤名をリストアップするだけでなく、その場で本来の治療に必要な薬かどうかのスクリーニング(初期評価)まで一気通貫で行う入力フローを構築します。
- 毎日のカンファレンスに「持参薬と現状確認」を入れ込む 入院日に薬を忘れたり、用法確認が当日に間に合わなかったりすることは日常茶飯事です。しかし、翌日には薬の内容はすべてチェックできるはずです。鑑別が終わった翌日のカンファレンスに組み込むラインができていれば、入院3日以内の実施は十分に可能です。
鑑別と評価を別々の作業として切り離すから二度手間になり、時間がかかります。鑑別と同時に評価・提案までを済ませる「ワンストップの業務ライン」を作ることが、3日以内ルールを楽にクリアする極意です。
条件3:持参薬ヒアリング時の「服薬負担・減量意向」の聞き取り標準化
そして3つ目、病棟薬剤業務実施加算1の実績要件である「薬剤総合評価調整加算(250点)」を取得する上で、最も重要かつ実践的なポイントが、患者への持参薬ヒアリング時に「服薬負担」と「減量意向」を直接聞き取るプロセスの標準化です。
対象となる「6剤以上の内服薬を服用している患者」への訪問時、単に「普段飲んでいるお薬を持ってきましたか?」と確認するだけでは不十分です。以下の2つの問いかけを必ずヒアリング項目に組み込みます。
- 服薬負担の確認:「薬の種類や飲む回数が多くて、飲みづらさを感じていませんか?」
- 減量意向の聞き取り:「もしお薬を減らせるとしたら、減らしたいと思いますか?」
なぜこの聞き取りが「月50件取得」の鍵になるのか?
患者側から「実は飲むのが辛い」「減らせるなら減らしたい」という声を引き出すことができれば、それがそのまま医師に対する「処方見直し・ポリファーマシー改善の総合評価(=薬剤総合評価調整加算)」を行う強力かつ正当な根拠になります。
医師にとっても、患者本人の「減量希望」という新たな目標があれば処方提案を受け入れやすく、結果として実際に2剤以上の減薬に成功した場合は、さらに上乗せの「薬剤調整加算(100点等)」まで狙えるようになります。
さらに、先進的な取り組みを行っている倉敷中央病院などの事例を参考にすると、退院が決まってから早い段階で地域の調剤薬局に連絡を入れることで「退院時薬剤情報管理指導料」を確実に取得しています。
それだけに留まらず、患者が退院後に在宅診療へ移行する場合は、在宅医療機関やかかりつけ薬剤師と連携して指導を行うことで「退院時共同指導料」の算定にもつながります。入院中に成功した減薬を、退院後も継続させる仕組みまで構築できるのです。
指導内容を定型化しておけば、この聞き取りに追加でかかる時間はわずか1〜2分です。質問の「型」を変えるだけで、従来の持参薬チェックがそのまま「高付加価値業務」へと変貌します。
人件費コストをかけてでも「算定しに行く」のが経営上の正解
「週1回 300点」が毎週加算として計上できるインパクトを考えれば、一般病棟で内科があり、これまで加算を取れていなかった病院であっても、人件費コスト(人員増員)をかけてでも取りに行くことが経営上のベターな選択であることは間違いありません。
ざっくりと試算してみましょう。
【100床規模の病院での試算例】
- 平均在院日数:2週間
- 年間総入院数:約2,600人
- 年間の病棟業務実施加算件数(週1回算定):約5,200件
- 年間売上増分:約650万円(5,200件 × 300点 × 10円)
もしDPC病院であれば、ここにDPC係数が乗ってくるため、さらに収益を上積みすることができます。
しかも、病棟業務は終日拘束されるわけではなく「半日」もあれば運用可能です。残りの半日は別業務やチーム医療の加算取得(ICT、NST、PUT、PCTなど)に充てることができ、スタッフの有意義な休みの創出にもつながります。
つまり、病院にとっても、薬剤科にとっても、「メリットしかない」のです。
必要なのは「作業を増やすこと」ではなく「業務ラインを整えること」
病棟薬剤業務実施加算1の取得において、現場の薬剤師が感じている「負担が増える」という懸念は、運用の工夫と業務ラインの再設計次第で完全に解消できます。
貴院の病棟業務フローを少し見直し、現場に負担をかけずに加算1を確実に取得するための具体的仕組み作りについて、ぜひ参考にしてみてください。