【新堀武司】野良猫の昼寝場所には、最強の戦略がある
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メガバンクの巨大な基幹システムを設計し、外資系コンサルティングファームで冷徹なまでの最適解を導き出してきた私が、最近もっとも畏敬の念を抱いている戦略家は、近所の路地裏で欠伸をしている一匹の野良猫です。一見するとただ怠けているようにしか見えないその姿には、実は現代のビジネスシーンが喉から手が出るほど欲しがっている、究極のリソース配分とリスク管理の本質が隠されています。
多くの企業は、二十四時間休まずに稼働し、常に全力を出し続けることを美徳としがちです。最新のシステムを導入して効率を極限まで高め、すべての時間を利益に直結させようと躍起になります。しかし、猫はどうでしょうか。彼らは一日の大半を寝て過ごしますが、その場所選びには一分の隙もありません。日当たりの良さ、敵が来ない見晴らし、そして何より自分が最も心地よく、かつ獲物が通った瞬間に即座に動けるポイントを完璧に見抜いています。この、動かない時間こそが、次の爆発的な跳躍を支えるための最も重要な投資であるという視点が、今の日本企業には圧倒的に欠けているのです。
私がかつて手がけた金融システムでは、停止することは許されない重罪でした。しかし、そこから離れてフリーランスとして活動する今、私はあえて停止することの価値を再発見しています。最新の技術を詰め込んだ重厚な仕組みを構築することよりも、現場の人間が猫のようにリラックスして周囲を観察し、ここぞという好機にだけ鋭く爪を立てられるような、余白のある組織文化を作ること。それこそが、私がコンサルタントとして提唱している新しい時代の生存戦略です。
最近はクライアントに対し、あなたの会社に昼寝をする場所はありますか、と問いかけることが増えました。物理的なベッドのことではありません。思考を停止させず、あえて何もしないことで見えてくる本質に気づくための、精神的なゆとりのことです。管理を強化して社員を追い詰めるシステムではなく、彼らが最も得意な場所で、最も自然な形で力を発揮できるような環境を整えること。技術はそのための舞台装置に過ぎません。
効率化の果てに人間味を失った組織は、不意の揺れに脆く、すぐに体力を削り取られてしまいます。一方で、野良猫のようにしなやかで、最小限のエネルギーで最大限の結果を出すチームは、どんな不況の中でも涼しい顔で生き残ります。私は、メガバンクで学んだ緻密な計算力と、路地裏で学んだしなやかな余裕。この二つを掛け合わせることで、誰も見たことがないような、手触り感のある未来の設計図を描き続けたいと考えています。
もし、あなたが今、終わりのない競争の中で息苦しさを感じているなら、一度立ち止まって猫の視点で世界を眺めてみてください。そこには、どんな高度なデータ分析でも導き出せない、あなただけの新しい居場所が待っているはずです。私はこれからも、最先端の知見を携えながらも、あえて日向ぼっこを大切にするエンジニアでありたいと思っています。世界は、力むのをやめた瞬間に、新しい扉を開いてくれるものです。その扉の先にある、自由で力強い物語を、一緒に紡ぎ出していきませんか。