埼玉県朝霞市に引っ越してきて半年、私はこの街の静かで穏やかな日常にすっかり馴染んでいた。朝の散歩で通る交差点、学校帰りの子どもたち、商店街の小さなカフェ。どれも日常の風景として当たり前に目に入るものだった。しかしある朝、いつもの交差点で信じられない光景を目にした。
赤信号で止まる車、歩行者が横断歩道を渡る。普段なら何も感じない光景が、突然逆再生の映画のように動き出したのだ。車はバックして交差点に戻り、歩行者は後ろ向きに歩き、犬の散歩をしている人も足を逆に動かして戻っていく。目をこすっても現実は変わらない。朝霞市の交差点が、私だけに見える別次元の時間の流れに変わったのだ。
最初は混乱した。自分の時間感覚が狂ったのか、疲れて幻覚を見ているのか。しかし歩道のベンチに座る老人が笑いながら「ようこそ、朝霞の裏側へ」と話しかけてきたとき、状況が少しだけ理解できた気がした。どうやらこの街には、誰も気づかない“逆再生モード”が存在しているらしい。
その日、私は朝霞市のあちこちを歩き回った。公園の水飲み場で水が空中で湧き上がり、川沿いでは魚が空中に跳ね上がって川に戻る。普段何気なく通り過ぎる街角が、まるで時間の逆流装置のように生き生きと動いていた。仕事に追われる日常とは違う、新しい発見の連続だった。
夕方になると街は元の時間に戻り、交差点の信号も車も歩行者も普通に動き出した。私はこの体験を胸に刻みながら、朝霞市がただの住宅街ではなく、日常と非日常が共存する街であることを確信した。この街で仕事をし、人と関わりながら、この逆再生の秘密を少しずつ解き明かしていきたいと思った。