第9回:私の年間SACログ公開──外洋・湾内・深場でどう変わる?**
第9回:私の年間SACログ公開──外洋・湾内・深場でどう変わる?**
SACの話をしていると、必ず聞かれる質問があります。
「プロって、実際どれくらいのSACで潜ってるんですか?」
今回はその問いに、数字で、そして正直に答えます。
ここでは、私・海沼葵衣のSACが 1年間でどんな変動をしているか をモデルとして公開します。
もちろん個人差や海況差はありますが、
プロがどんな“揺れ”の中で安定を保っているのか、
その“リアル”が伝わるはずです。
◆ 1. 年間SACのざっくり傾向
まずは1年間を通しての大まかな数字です。
シチュエーションSACのレンジ(年間平均)コメント
外洋ドリフト(通常)
14〜16 L/min
外洋は流れに乗れると低く、逆らうと跳ねる
外洋“強い流れ”
18〜22 L/min
流速1ノット超で急上昇
湾内(穏やか)
11〜14 L/min
最も安定しやすい環境
深場(30m〜40m)
16〜19 L/min
圧力増+心理負荷で上昇しやすい
水温低い日(ドライ)
15〜18 L/min
保温負荷・筋緊張の影響
講習対応(初心者)
17〜21 L/min
作業負荷・安心ケアで上がる
撮影モード(長時間停止)
12〜15 L/min
最も“海と調和”するモード
全体平均としては、年間通して 14〜17 L/min。
プロとしては標準〜やや低めの安定域です。
◆ 2. 外洋:SAC変動がいちばん大きい場所
外洋は、年間通して “もっともSACが揺らぐ” フィールドです。
● 流れに乗れているとき(最高に気持ちいい状態)
- SAC 14〜15 L/min
- 呼吸が深く、視界が広く、動きが少ない
- 外洋の“潮のベルトコンベア”を使える瞬間
● 流れに逆らってしまったとき(疲労ピーク)
- SAC 18〜22 L/min
- フィンを止められない
- 姿勢維持に力が入る
- 早めのルート変更が必要
外洋の最大の特徴は
「呼吸が海況にそのまま反映されること」
です。
◆ 3. 湾内:もっとも“呼吸が整う場所”
湾内は外洋と逆で、
SACを最も“落ち着かせてくれる”フィールドです。
● 湾内の平均は 11〜14 L/min
- 流れが弱い
- 水温ムラが少ない
- 深度の上下が緩やか
- 姿勢が安定しやすい
- 気持ちも落ち着きやすい
特に撮影や生物観察が中心の日は、
12〜13 L/min台 がもっとも出やすい。
湾内は、身体だけでなく“心を下げてくれる海”です。
◆ 4. 深場(30〜40m):圧力+心理負荷で上がる
深場での私のSACは 16〜19 L/min が年間の一般範囲。
● 上がる理由は2つ
① 圧力増加 → ガス消費が増える
② 心理的な緊張 → 呼吸が浅くなりやすい
深場で安定したSACを出せるようになるには、
「深度に合わせた呼吸のペース」を身体で覚える必要があります。
深場は、技術より 呼吸の“質” が試されます。
◆ 5. 水温差:寒いとSACは確実に上がる
特に冬の外洋やサーモクラインは、
SAC上昇の大きな原因です。
● 年間平均
- 水温高い(25℃以上):12〜15 L/min
- 水温低い(20℃以下):15〜18 L/min
寒さは思った以上に肺の動きを制限し、
浅い呼吸を誘発します。
● ドライ装備時のポイント
- 体幹が冷える → 呼吸筋がこわばる
- 手足が冷える → 姿勢維持がぎこちなくなる
- 心理的緊張が上乗せされる
冷たい海ほど、SACに“心の反応”が出やすいと感じます。
◆ 6. 装備差:ウェットとドライでの年間SACの違い
装備年間の平均SACレンジ特徴
ウェット
12〜15 L/min
軽装・呼吸安定・浮力変化が少ない
ドライ
15〜18 L/min
空気移動・保温負荷・姿勢の難しさ
◎ ウェットは“呼吸の質”がダイレクトにSACへ反映
余計な浮力源がないため、
身体の動きと呼吸の連動が素直。
◎ ドライは“姿勢と空気管理”でSACが上下
外洋だと特に数値の揺れが大きくなる。
◆ 7. 年間ログを振り返って気づくこと
1年分のSACログを見返すと、
「そのときの自分」が鮮明に蘇ってきます。
- 流れと闘ってしまった日
- 最高のドリフトに乗れた日
- ゲストのフォローで忙しかった日
- 深場で慎重に潜った日
- ただただ海と呼吸が合った日の静けさ
SACのログは、
私にとって “海との会話の記録” なのだと思います。
数字は嘘をつかない。
でも数字は、
その日の心を全部語ってくれる。