「食べ物は薬である」という理念
「食べ物は薬である」という理念は、古代ギリシャの医師ヒポクラテスの言葉として広く知られています。現代においても、この考え方は予防医学や栄養学の分野で改めて注目を集めています。
抗酸化ストレスと食材の役割
私たちの身体は、日常生活の中で必然的に活性酸素を生み出しています。しかし、過剰な活性酸素は細胞にダメージを与え、酸化ストレスを引き起こす要因となります。これが動脈硬化や糖尿病、がんなどの慢性疾患のリスクを高めることが、数多くの研究によって報告されています(Ames, 1993; Valko et al., 2007)。
野菜や果物に含まれるポリフェノール類、カロテノイド、ビタミンC・Eといった抗酸化物質は、酸化ストレスを軽減し、細胞の老化を防ぐ働きがあるとされています(Scalbert et al., 2005)。無添加の状態で摂取することは、添加物による余分な代謝負担を避けつつ、自然本来の抗酸化力を活かすために有効です。
腸内フローラと免疫調整
近年、腸内環境と全身の健康との関係は「第二の脳」とも呼ばれるほど注目されています。腸内フローラのバランスは、免疫機能や代謝、さらには精神的健康にも影響することが報告されています(Sekirov et al., 2010)。
特に水溶性食物繊維や発酵食品は善玉菌を増やし、腸内環境を整える効果があります。無添加食品を選択することは、人工甘味料や保存料など腸内フローラに悪影響を及ぼす可能性が指摘されている要素を避けるうえで重要です。
慢性炎症と血糖値コントロール
慢性炎症は「サイレントキラー」とも呼ばれ、生活習慣病の背景に存在することが知られています。精製糖や加工食品の過剰摂取は炎症性サイトカインを増加させ、インスリン抵抗性や肥満を悪化させる可能性があるとされています(Hotamisligil, 2006)。
これに対し、全粒穀物、魚介類、オメガ3脂肪酸を含む食品は炎症を抑制し、血糖値の安定化にも寄与すると報告されています(Calder, 2017)。無添加食材を中心とした食生活は、こうした「炎症性負荷」を軽減する上で効果的です。
薬膳の知恵と現代栄養学の融合
東洋医学における薬膳の視点では、食材は「体質」や「季節」に応じた処方箋のように扱われます。冷え症には生姜やネギ、免疫力低下にはきのこ類や緑黄色野菜、疲労回復には黒豆や棗(なつめ)が用いられます。これらは近年の栄養学的研究によっても、その成分が抗酸化作用・免疫調整・抗炎症作用を持つことが裏付けられつつあります。
まとめ
「無添加食材を積極的に取り入れること」は、単なるナチュラル志向ではなく、酸化ストレスの軽減・腸内フローラの改善・炎症の抑制・血糖値の安定化といった科学的根拠に基づいた健康法といえます。日々の食事は、未来の健康を左右する「最良の予防医学」であり、食卓こそが私たちの最も身近な薬箱なのです。
使用した参考文献例
- Ames BN. Oxidants, antioxidants, and the degenerative diseases of aging. PNAS. 1993.
- Valko M, et al. Free radicals and antioxidants in normal physiological functions and human disease. Int J Biochem Cell Biol. 2007.
- Scalbert A, et al. Dietary polyphenols and the prevention of diseases. Crit Rev Food Sci Nutr. 2005.
- Sekirov I, et al. Gut microbiota in health and disease. Physiol Rev. 2010.
- Hotamisligil GS. Inflammation and metabolic disorders. Nature. 2006.
- Calder PC. Omega-3 fatty acids and inflammatory processes. Nutrients. 2017.