オフィスで働いていると、思いがけない変化がふいにやってくることがある。ある朝、会議室に入ると、机の中央に小さな鉢植えがぽつんと置かれていた。誰が持ち込んだのかもわからないまま、ミーティングが始まった。資料をめくる音とキーボードの打鍵音の合間に、緑の葉が静かに存在を主張している。その違和感が妙に心に残った。
数日後、気づくとその鉢植えには付箋が貼られていた。「水やりは二日に一度」「声をかけてあげると元気になります」そんなメモが次々と増えていく。誰かが世話をしているのだろうが、担当者は名乗らない。社員の一人ひとりが少しずつ関わり始め、会議室の雰囲気が柔らかく変わっていった。
プロジェクトが難航して空気が重くなっていた時も、その鉢植えを見て「まあ、植物はのんびり育ってるし」と冗談を言う人がいた。すると自然に笑いが生まれ、硬直していた議論がほどけていく。結局、その案件は成功裏に終わったが、思い返すと転機は植物が話題になった瞬間だった気がする。
誰かの小さなアクションが、チーム全体の流れを変えることがある。あの鉢植えは象徴のようにそこにあり、人と人をつなぐ媒介になった。仕事というのは数字や成果だけでなく、環境や心の状態によって大きく左右される。そのことを目の前の緑が教えてくれた。
後日、その鉢植えを持ち込んだのは新人のインターン生だと判明した。理由を聞くと「少しでも居心地のいい空間になればと思って」と照れくさそうに答えた。単なる思いつきだったのかもしれない。でも、その思いつきがどれだけ大きな意味を持ったか、本人はまだ知らないかもしれない。
いま思うと、あの出来事は仕事における「余白」の力を示していたのだろう。効率やスピードばかりを追い求めると、心が疲れてしまう。そこに小さな余白が生まれると、予想もしなかった創造性や協力が芽生える。私たちは目に見える数字で自分を測りがちだが、実際には数字に表れない要素が未来を形作っている。
もしあなたの職場に突然謎の鉢植えが置かれたら、ぜひ少し気を配ってみてほしい。その緑はただの飾りではなく、チームを変えるきっかけになるかもしれない。仕事をもっと楽しくするヒントは、意外なほど身近なところに転がっている。