光の器
光の器
― 手の中に宿る、島の記憶 ―
昼下がり、やわらかな陽が差し込む工房を訪ねた。
陶芸家の宮城さんは、静かにろくろの前に座っていた。
その手の動きは、まるで風と対話するようだった。
土の塊が、彼の手のひらの中でゆっくりと形を変えていく。
「器はね、光をどう受け取るかで、表情が変わるんですよ」
宮城さんは、土に指を沈めながらそう言った。
窓の外では、海が静かに光っている。
その光が、工房の壁や棚に並ぶ器に反射して、
波のような影を描いていた。
「この島の土には、潮風が混じってる。
だからね、焼くときに火の中で海が目を覚ますんです。」
彼の声は穏やかで、まるで祈りの言葉のようだった。
工房の片隅には、割れかけた器がいくつも並べられていた。
「焼きすぎたもの、形が崩れたもの、全部“失敗”じゃない。
土は生き物だから、反抗もするし、気まぐれもある。
でもね、それが自然なんですよ。
人も、火も、土も、全部おたがいに学び合ってる。」
その言葉に、私は胸が温かくなった。
豆腐の比嘉さんも、塩の新里さんも、
黒糖の上原さんも、みんな同じことを言っていた。
自然の中に「正解」はない。
ただ、風と火と水に耳を傾けながら、
その日、その瞬間の命を受け取るだけ。
器もまた、その“受け皿”なのだ。
宮城さんの器を手に取ると、
表面にほんのりと光が宿っていた。
触れると少しあたたかい。
まるで人の手のぬくもりが、まだ残っているかのようだった。
「この光は、土が覚えている島の記憶なんですよ」
宮城さんの言葉に、工房の空気が一瞬やわらかくなった。
店に戻り、その器を使って料理を盛る。
月桃の葉の香りを添えた島野菜、
比嘉さんの豆腐、新里さんの塩、上原さんの黒糖ソース。
それぞれの祈りが、一つの器の中で出会う。
お客様がスプーンを入れる瞬間、
器の光がほんの少し揺れた。
それは、島の時間がふたたび息を吹き返すような光だった。
夜、厨房の灯を落とすと、
棚に並ぶ器たちが月の光を受けて淡く輝いていた。
風が窓を通り抜け、静かな音を残していく。
その音の中で、私は思う。
器とは、光と記憶を包む手のかたち。
そして料理とは、それを通して“祈り”を伝える行為なのだと。
明日もまた、この光の器に、
新しい風と命の味をそっと盛りつけよう。
この島の記憶が、食卓の上で静かに光りますように。