朝焼けを眺めていたら仕事の進め方が変わったという話をすると、大抵の人は冗談だと笑う。でも本当にそうだったのだから仕方がない。徹夜明けでコードのバグと格闘していたとき、空の端からゆっくり色が滲むように広がってきた淡い赤を見て、頭が冷えたのだ。まるで複雑に絡んだ問題がいったんほどけて、別の角度から見えてくるような感覚だった。以前の僕はひたすら速度を優先して目の前の課題をねじ伏せるように進めていたが、この瞬間にそのやり方が限界を迎えていたことに気づかされた。
なぜ朝焼けだったのかは自分でもよくわからない。ただ、自然に発生するこのゆっくりした変化を眺めていると、自分の時間の使い方が極端に偏っていることが透けて見えた。タスク管理ツールの数字だけを追い続け、進捗という言葉を自分の心の動きから切り離してしまっていたのだ。フリーランスになったとき、自由を得たつもりで実際は自分で自分を縛りつけていたことにも気づいた。朝焼けは何も言わないのに、そこには不思議な説得力があった。
その日以降、仕事の進め方を意識的に変えてみた。タスクをこなすことだけを目的にするのではなく、取り組む時間帯やリズム、集中の仕方を変えながら最適なポイントを探すようになった。すると作業スピードではなく、判断の質が徐々に変化していった。優先順位の決め方が明確になり、依頼内容の裏にある本当に必要な部分が見えやすくなった。設計を考えるときも、以前は必要要件をひとつずつ積み上げるようにまとめていたが、今は全体の景色を捉えてから細部に降りていくような感覚が自然に身についた。
経験というのは不思議なもので、積み上げてきた技術よりも、見落としてきた視点のほうがある日突然役に立つことがある。朝焼けが教えてくれたのは、速度よりも視点、量よりも方向という当たり前のことだった。フリーランスとして多様な案件に触れるほど、自分の思考がどこか一点に固まりやすくなる。だからこそ、意識的にゆっくり動く時間を持つことが、逆に大きな前進につながっていった。
今でも徹夜明けの日は必ず空を見上げる。朝焼けの色は毎回違うが、その違いがいい。環境も案件もクライアントの課題も毎回違うのだから、こちらも毎回違う視点で向き合うほうが自然だと思えるようになった。この変化は僕にとって大きな転機だった。締切前の焦りもすべてが悪いわけではなく、そこから生まれる集中もある。でもその集中が盲目になってはいけないということを、僕はあの静かな朝の光から学んだ。
この感覚を大げさだと思う人もいるかもしれない。けれど僕にとっては、技術書のどの章よりも、フレームワークの新機能よりも、あの日の空が最も実務に影響を与えてくれた。仕事に行き詰まったときほど、画面ではなく空を見るべきなのかもしれない。そこには静かな変化があり、それは新しい視点への入り口になる。