【前嶋拳人】ドライヤーの音で、チームの未来を考えるようになった
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夜でも朝でもない、なんとなく気持ちが宙ぶらりんな時間。シャワーを浴びたあと、いつものようにドライヤーを手に取った瞬間、ふと考えた。なぜ、私は毎日この単調な“風”の音に安心するんだろう。ブオオオという均一な音。誰かが話しているわけでも、音楽が鳴っているわけでもない。けれどこの時間だけは、頭の中が整理されていく。仕事のことも、人との関わりも、明日の自分のことも。ドライヤーの風が、まるで自分の考えを整えてくれるように感じる。
気づけば、私はチームのミーティングでも、同じような感覚を求めている。誰かの意見が強すぎると、風向きが偏る。静かすぎると、空気がこもる。ちょうどいい温度と風量で、全員の考えが巡るような場が好きなんだ。音の大きさじゃなく、流れが大事。誰かが熱を上げたら、誰かが涼しく風を送る。そのバランスの中で、プロジェクトが育つのを感じる。
この気づきから、私は会議の前にひとつルールを決めた。「自分が話す時間より、他の人の風を感じる時間を長くする」。これだけで空気の流れが変わった。意見をぶつけるのではなく、温度を合わせるように会話を重ねる。そうしてできたアイデアは、不思議とチーム全員の手触りがある。
ドライヤーの音って、ただの生活音だと思っていた。でもあれは、私に“流れの心地よさ”を教えてくれる先生みたいな存在だった。仕事も人間関係も、結局は風の通り方次第。強すぎれば誰かが疲れるし、弱すぎれば熱がこもる。心地よい風を生むには、タイミングと温度を見極めるセンスが必要なんだと思う。
最近は、メンバーが発言に詰まったときも、「いま、風が止まったな」と感じるようになった。その瞬間、あえて沈黙を守ることもある。急かさず、焦らず、流れを取り戻す。そうすると、誰かがそっと風を送り返してくれる。会話って、そういうものなんだ。風が循環すると、チームが呼吸し始める。
そんなふうに考えると、リーダーの役割も変わって見えてきた。引っ張るより、流れを作る。命令より、空気を整える。プロジェクトの方向性を決めるのは大事だけど、もっと大事なのはメンバーが気持ちよく風を送り合える状態を保つこと。だから私は、会議の前に深呼吸をしてから話し始める。ちょっとしたことだけど、たぶん空気の“最初の一陣”を決めるのはリーダーの息なんだと思う。
ドライヤーをかけながら、自分の仕事のことを考える。いつもより静かな夜。風の音が、チームの未来を運んでいくように聞こえた。あの音の中に、自分たちの“これから”が混じっている気がした。