アートの未来は「共創」「拡張」「変容」にある
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アートの未来は「共創」「拡張」「変容」にある
──作家として、そして教室主宰者としての5年目の思索
アート教室を始めて5年。
この間、私は「作家」と「教える人」という二つの立場を行き来しながら過ごしてきました。振り返れば、この往復の中で見えてきたのは、アートの未来を照らす3つのキーワード──「共創」「拡張」「変容」でした。
孤独な探求 vs 共創
作家としての活動は、しばしば孤独な探求です。
たとえば《都市の記憶》シリーズでは、街に刻まれた痕跡や人々の営みを抽象的な線と色で表そうと、何時間もキャンバスに向かいました。その作業は沈黙に包まれ、答えの見えない道を歩くような感覚を伴います。
一方、教室での制作は「共創」です。生徒が自由に描いた線に私の言葉が重なり、あるいは私の提案が子どもたちの発想によって思いがけない方向へ広がっていく。孤独の中で磨いた感覚が、他者と交わることで新しい可能性に変わっていくのです。
専門的な拡張 vs 誰もができる拡張
作家としては、《光と影のインスタレーション》に取り組みました。
光源と素材の組み合わせによって空間全体を変容させる試みは、専門的な実験の積み重ねが必要で、鑑賞者にとっては時に難解にも映ります。
一方、教室では「牛乳パックを切ってみる」「土に絵具を混ぜる」といった日常の素材や遊びから表現が拡張していきます。そこには誰もがアクセスできる親しさがあり、アートの拡張は難解でなくても成立するのだと気づかされます。
挑戦としての変容 vs 自然な変容
作家活動における変容は、常に挑戦です。
《断片と未来》というシリーズでは、過去の作品を意図的に分解し、そこから新しい作品を立ち上げる試みに挑みました。「前作を超えられるか」「未知の領域に踏み込めるか」と自分に問い続ける過程は苦しくもあり、同時に大きな喜びでもあります。
一方、教室での子どもたちの変容は驚くほど自然です。昨日できなかったことが今日できる。思いがけない形や色が次の作品を呼び込む。変容は挑戦ではなく、むしろ遊びや好奇心のなかから自然に立ち上がるものであることを、生徒たちは教えてくれます。
孤独な探求と共創、専門的な拡張と誰もができる拡張、挑戦としての変容と自然な変容。
その対比のあいだを揺れ動きながら、私はこの5年間を歩んできました。
アートの未来は、どちらか一方にあるのではなく、その往復のなかに宿っています。
作家としての探求を深めながら、教室での共創に還す。教室での気づきを抱えながら、再びアトリエに戻る。
この循環こそが、私にとっての「アートを通じて学ぶこと」なのです。
石塚昭典