【高倉友彰】納期が止まる瞬間の価値
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この時期、プロジェクトの動きがゆっくりになる。
取引先の担当者が休暇に入り、定例ミーティングはキャンセル。タスク管理ツールの更新もピタリと止まる。エンジニアにとっては、普段の緊迫感が薄れ、妙な空白時間が生まれる季節だ。
一見すると「暇になった」と感じるかもしれない。しかし、この空白は単なる休息ではない。むしろ、普段の進行速度ではできないことを仕込む絶好の機会になる。
僕はこの期間を「納期が止まる瞬間」と呼んでいる。納期が動いている時は、全員がゴールに向けて必死に走っている。方向修正や環境改善は、緊急度が低いと後回しになりがちだ。だが、納期が一時的に止まると、視界が広がり、チームやプロダクト全体を俯瞰できる。
このタイミングでやることは決まっている。コードのリファクタリング、APIのエンドポイント整理、テストの追加、ドキュメントの更新。見た目には派手さはないが、将来のトラブルを防ぎ、開発スピードを維持するための地盤固めだ。
特にスタートアップでは、この期間の過ごし方が後々の成長速度に大きく影響する。プロジェクトが再び動き出す時、整理された環境はチームを一気に加速させる。逆に、何もせずに終われば、再開後に積み残しが足かせになる。
面白いのは、この「納期が止まる瞬間」にこそ、チームのカルチャーがにじみ出るということだ。改善に時間を使う人もいれば、新しい技術の検証を始める人、全く別のアイデアを形にする人もいる。こうした行動の積み重ねが、休暇明けのチームの勢いを決める。
だから僕は、この時期をただの閑散期とは思わない。むしろ、走るためのフォームを整える重要な時間だ。
納期が止まる瞬間は、未来のスピードを作る瞬間でもある。