「無個性」に悩んだ私が、学生に伝えたこと
私は短大でグラフィックデザインの非常勤講師をしています。
ポートフォリオの授業も担当していて、ある日、2年生の学生が「どうすれば良くなるかわからない」と相談に来ました。
その学生は成績も良く、入選経験もある。
作品を並べればすでに形にはなっている。
でも話を聞いていて、ふと1年生の頃の表情を思い出したんです。
たしか“個性”の話題で、渋い顔をしていたなと。
「個性がないって悩んでる?」と声をかけると、
生徒は“言い当てられた”ような顔をしました。
作品には問題がない。
でも、“ポートフォリオの個性がない”と悩んでいる。
これは、まさに私自身がかつて苦しんだ悩みでした。
課題制作にはテーマや目標があるけど、
ポートフォリオは“自己PR”。自己表現です。
これが本当に難しい。
私は普段、直接的な答えを与えるようなことは避けているのですが、
このときばかりは、就活で砕けた過去の自分と学生が重なりすぎて、体験談を話すことにしました。
「私もずっと、個性がないって悩んでたよ。
面接が終わるたびに反省して、A3プリンターで刷り直して、また悩んで。
友達には“個性のかたまり”みたいな子もいて、比べてはどんどんドツボにハマっていった。
就職できたあともずっと苦しかった。
でも、あるとき面接する側になって気づいたんだよね。
“個性がないのも個性”じゃない?って。
大事なのは、自分のプレゼン資料としてポートフォリオを使いこなせること。
自分のポートフォリオで自分を売り込めるかっていう目線で確認したことある?
無理に取り繕っても、面接官にはバレるからね。」
私は、整然とした“図録みたいなポートフォリオ”を目指しました。
業界も媒体もばらばらな仕事を扱う身として、
情報が見やすく、わかりやすくまとまっていれば十分だと思ったから。
私には一貫した“個性”はないけど、
「幅広い案件に対応できる」「整った資料が作れる」ことを見せられたらOK。
個性に悩むより、今ある事実で勝負する方がラクになったんです。
そう話して(めっちゃ嫌だけど)自分のPDFポートフォリオを見せました。
隣にいた学生も「え、こんな感じでもいいんですか?」と驚いていました。
特別な“個性”があるわけじゃない。
でも「無個性だからこそ見せられる軸」があってもいい。
悩んだからって個性が生まれるわけじゃないし、
続けていく中で自然とにじみ出てくるものもある。
…そんなふうに話したものの、
実際に学生がどう受け取ったかはわかりません。
実体験と重ならないと本当の意味で納得と理解はできないと思っているので。
でも、あの頃の自分の供養にはなった気がしています。