【山本達也:千葉県/市川市】会議室の外で磨かれた技術
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新卒で配属された大手SIerの最初の現場は、毎日が資料作成と会議の連続だった。開発に携わりたいと思って入社したはずなのに、実際にコードを書く時間は驚くほど少なかった。それでも当時の私は不思議と不満を感じなかった。なぜなら、顧客の何気ない一言や曖昧な要望を整理し、実際に形にできるよう翻訳する過程に面白さを見出していたからだ。
やがて独立してフリーランスとして仕事を始めたとき、この経験が思いがけず大きな武器になった。スタートアップの現場では要件定義書がきれいに揃っていることは少なく、むしろ「これがやりたいんだけど、どうしたらいい?」というざっくりした相談がほとんどだ。その曖昧さを楽しめるかどうかで、結果は大きく変わる。私は会議室で磨いたコミュニケーション力を使い、言葉になっていない課題をすくい上げ、システムとして形にすることを続けてきた。
個人開発でも同じだ。例えば日常のちょっとした不便を自動化するツールを作るとき、自分が「顧客」として要件をまとめ、開発者として実装し、利用者として改善を繰り返す。その三つの立場を行き来する感覚は、会議室で培った翻訳の力があるからこそスムーズに回っていく。
振り返ると、私のキャリアは技術より先に「人の言葉を理解すること」から始まっていた。エンジニアと非エンジニアの橋渡しをしながら、システムを作るだけでなく、人と人との関係性も築いてきたのだと思う。これからも私はコードを書く時間と同じくらい、会話の時間を大切にしたい。なぜなら、技術は常に進化していくけれど、人の言葉を理解する力は、どの時代でも変わらず価値を持ち続けるはずだからだ。