eSportsは「勝てばいい」から「誰に届くか」へ
はじめに
eSportsの市場規模は成長を続け、大会の賞金額も、ファンコミュニティも、かつてない規模に広がっている。
けれど、今このカルチャーが直面している問いは、「どうやって広げるか」ではなく、「どうやって残していくか」にシフトし始めているように思える。
本稿では、これからのeSportsが成長し続けていくために必要な視点として、次の3つを取り上げたい:
- 「勝利」だけではなく「ブランド」としての価値
- プレイそのものより「物語」が人を動かすという構造
- プロとファンの間に存在する“中間層”のポジショニング
これらはすべて、eSportsを「競技」から「文化」に進化させる鍵だ。
1|勝つだけでは、もう足りない
チームは「ブランド」として評価される時代へ
近年、プロeSportsチームの在り方は明らかに変わってきた。
かつては勝利数=評価軸だったが、今や**「勝っていなくてもファンが離れないチーム」**が存在する。その代表格が、Crazy Raccoon(CR)だ。
CRは確かに強豪ではあるが、「ただ勝つこと」だけに軸を置いていない。
選手の個性を活かした発信、タレントとのコラボ、イベント展開、グッズや映像作品の品質管理──チームそのものを“作品”として設計するブランディングに成功している。
eSportsの未来において、勝つだけのチームはすぐに忘れられるかもしれない。
「推される理由」が明確なチームだけが、長期的に記憶に残る。
これからのチーム運営には、競技力と同じレベルで、ブランド構築の戦略が求められてくる。
2|人が動くのは“技術”より“物語”
ハイレベルなプレイはそれだけで価値がある。
でも、それを“面白い”と感じるには、その人がどんな背景でそこに立っているのかというストーリーが欠かせない。
- もともと引きこもりだった選手が、大会で仲間と喜ぶ姿
- 何度も負けていたチームが、努力の末に1勝をもぎ取る
- 引退を目前にしたベテランのラストマッチ
そうしたストーリーがあるだけで、ただの1ラウンドが“人生の瞬間”に見えてくる。
選手やチームの「勝ち」ではなく、「意味」が人の心を動かす。
eSportsがこの先、より多くの層に届いていくには、スーパープレイの映像以上に、“物語としての伝え方”が洗練されていく必要がある。
3|“真ん中の層”を無視しないことが、カルチャーを育てる
eSportsはよく、「プロ」と「ファン」の関係性で語られる。
でも、その間には確かに存在している、もう1つの大事なレイヤーがある。
たとえば──
- 週末の草大会で上位を目指す社会人プレイヤー
- 地元の高校eSports部で配信環境を整えている学生
- 競技志向だが大会に出場する勇気がない配信未経験者
プロにはなれないけど、真剣にゲームと向き合っている人たち。
この“中間層”の居場所をどれだけ用意できるかが、eSportsが一過性のブームではなく「日常文化」として根づくかどうかの分かれ道だ。
部活動やアマチュア大会の支援、育成リーグの整備、セカンドキャリア設計の導入──
これらの地道な取り組みこそが、長く人が関わり続けられるeSportsの土壌になる。
おわりに
eSportsの面白さは、勝ち負けだけじゃない。
“誰がプレイしているのか”、“そこにどんな背景があるのか”、そして“その人やチームにどう共感できるか”という要素が揃って、ようやく心を動かすコンテンツになる。
だからこそ、これからのeSportsには、「勝者」だけじゃなく「ファンに届くストーリー」や「ブランドとしての設計」、「中間層の居場所づくり」が必要不可欠だ。
そして、それを整えていくのは選手だけじゃない。
チーム、企業、ファン、現場スタッフ──あらゆる立場の人が“関わり続けたい世界”を一緒に作ること。
それが、eSportsが“カルチャー”として残っていく唯一の方法だと思っている。