【本田教之】オフィスの窓が語りかけた夜
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夜遅く、オフィスの窓際に立って外を見下ろしていた。普段はプロジェクトの進捗やコードの動きばかりを気にしている私だが、この瞬間は目の前に広がる街の光の揺らぎが、心に直接話しかけてくるように感じた。高層ビルの明かりはまるで小さな星のように瞬き、行き交う人々の影が地面に踊る。日中の喧騒とは違い、静かな夜の都市は、誰も気づかない物語を静かに刻んでいた。
机の上には未完の資料や設計図、パソコンの画面には複雑なシステム構成図が映し出されている。普段なら効率や論理を優先して処理するものばかりだが、夜の静けさの中では、それらすべてが未来の可能性の断片に見えてきた。ふと、自分が手掛けるシステムやプロジェクトも、この街の光と同じように小さな奇跡を積み重ねて生まれるのだと思い至る。どんなに論理的で緻密な計画も、最初の問いや仮説がなければ動き出すことはできない。
そのとき、窓の外の歩道に一人の青年が立ち止まった。スマートフォンを手に、何かを真剣に考えている様子だ。彼の背中に映る街灯の光が、まるで考えることの価値を祝福しているかのように見える。日常の中で誰も気に留めない小さな瞬間だが、私にはその光景が、組織やチームの未来を切り開く力の象徴のように映った。個々の思考や行動、問いかけが集まって、やがて大きな変化や成果を生む。それはシステム開発でも、ビジネス戦略でも同じだ。
夜風が窓をかすかに揺らし、室内に静かな音を運ぶ。普段の忙しさでは気づかない細かい動きや偶然の出会いが、実は最も大きな学びや発想の源になるのだと気づかされる。チームやプロジェクトにおいても、正解や効率だけでなく、問いや発想、現場での微妙な変化に目を向けることが、未来を形作る鍵となる。だからこそ、時にはこうして立ち止まり、街や人々の営みを観察することが重要なのだ。
帰り際、オフィスの照明を落とし、最後にもう一度窓の外を見た。ビルの間を走る光の帯や、歩道を進む人々の影が、無言のまま物語を紡いでいる。自分の手掛ける仕事やチームも、この光景のように、小さな問いや試行錯誤が積み重なって初めて形になる。夜のオフィスで味わったこの感覚は、明日からの仕事やリーダーシップに、新たな視点と勇気をもたらしてくれるに違いない。