つくる時代から、選び残す時代へ
最近、自分の持ち物について考えることが増えた。
以前は、欲しいものがあれば買うこともあったけれど、今は少し違う。
本当に必要なのか。
長く使えるのか。
時間が経っても自分が好きでいられるのか。
そして、それを持つことで自分の価値観がどう表れるのか。
そんなことを考えてから、ものを選ぶようになった。
不思議なことに、この感覚はデザインの仕事にも近い気がしている。
今は、以前よりも圧倒的に多くのものを、短い時間でつくれるようになった。
画像も、文章も、動画も、Webも、一定のクオリティまでなら以前ほど時間をかけずに形にできる。
「つくること」そのものは、これからさらに身近になっていく。
そうなると、デザイナーの価値も少しずつ変わっていくのだと思う。
たくさんつくれることよりも、何をつくるのかを選べること。
何を残し、何を捨てるのか。
何を組み合わせるのか。
どこまでやるのか。
そして、なぜそれを選んだのか。
これからは、そうした判断の積み重ねがデザインの価値になっていくのではないかと思う。
例えば、良い家具や時計、服を選ぶときも、単純に「高いから良い」というわけではない。
素材や技術、背景があり、時間を経ることで味わいが出るものがある。
最初から完成されているというより、自分が使い続けることで、自分との関係性が生まれていく。
デザインも同じなのかもしれない。
一瞬だけ目を引くものをつくるのではなく、なぜこの形なのか、なぜこの余白なのか、なぜこの言葉なのか。
時間が経っても意味が残るものをつくる。
そのためには、技術だけではなく、自分自身の価値観や経験が必要になる。
だから最近は、デザイナーとして「何ができるか」だけではなく、「自分は何を良いと思うのか」を考えることが大切だと思っている。
選択肢が増えれば増えるほど、判断することの重要性も増していく。
たくさんの案を出せることより、その中から何を選ぶのか。
新しい表現を知っていることより、それを使うべきかどうかを判断できること。
便利な道具を使いこなすことより、その道具によって何を実現したいのかを考えられること。
そうした部分に、これからのデザイナーの個性が表れていくのだと思う。
グラフィックデザイナーとして制作に向き合いながら、今ではWebや動画など、さまざまなクリエイティブを含めて全体を見ることも増えた。
その中で感じるのは、これからのデザイナーは「つくる人」だけではなく、「選び、編集し、方向を決める人」になっていくということ。
もちろん、制作技術は必要だ。
手を動かすことをやめる必要もない。
むしろ、自分でつくれるからこそ、良し悪しを判断できる。
ただ、そこに経験や知識、事業への理解、コミュニケーション、そして自分自身の美意識が加わることで、デザイナーとしての価値はもっと広がっていく。
最近、自分の持ち物を整理していて思う。
ものを減らすことは、単純に所有を減らすことではない。
自分にとって本当に価値のあるものを見極めることなのだと思う。
デザインも同じだ。
情報を増やすのではなく、必要なものを残す。
装飾を増やすのではなく、意味を残す。
制作物を増やすのではなく、価値を残す。
つくることが簡単になり、選択肢が増えていく時代だからこそ、デザイナーには「選ぶ力」がより必要になる。
そして、その選ぶ力は、一朝一夕では身につかない。
日々ものを見て、考えて、使って、失敗して、また選ぶ。
そうした経験そのものが、自分のデザインをつくっていく。
これからのグラフィックデザイナーに必要なのは、ただ新しい技術を覚えることではなく、道具や環境が変わっても、自分なりの判断基準を持ち続けることなのかもしれない。
何をつくるか。
何を選ぶか。
何を残すか。
その選択に、自分自身の価値観が表れる。
大量につくれる時代だからこそ、少数でも「これは残したい」と思えるものをつくれるデザイナーでありたいと思う。