「ね、お母さん。けんちゃんなんだけどさ」
洋ちゃんは、学校から帰ってくると、お母さんに話しかけた。
「健ちゃんがどうかしたの?」
「うん。健ちゃんなんだけどさ。昨日、一緒にヨット教室でヨット乗ったんだけど・・」
「その前に、あんた、学校から帰ってきて手とか洗ったの?」
「え。まあ、手は後で洗いに行くけど」
「外から戻ってきたら、まず手をしっかり洗ってきなさい」
お母さんは、洋ちゃんに注意した。
「はーい」
洋ちゃんは、話を中断すると、洗面所に行き、自分の手をよく石鹸で洗い始めた。
「ちゃんとしっかり石鹸を使って、指の先まで洗うのよ!」
お母さんは、台所から大声で洗面所の洋ちゃんに命じた。
「うん、わかっているよ!石鹸もいま使っているから」
洋ちゃんは、手を洗いながら、洗面所から大声で言い返していた。
「それでさ」
洋ちゃんは、洗面所で手を洗い終わってくると、お母さんに続きを話し出した。
「え、なんだったけ」
「だから、健ちゃんの話」
「ああ、健ちゃんね。健ちゃんがどうかしたの?」
お母さんは、キッチンで夕食の準備をしながら、背後の洋ちゃんに返事した。
「あのさ、けんちゃんなんだけどさ」
「ええ」
「昨日、ヨット教室で一緒のヨットに乗ったんだけどさ」
「一緒のヨットだったの?それは良かったじゃないの」
お母さんは、忙しそうに夕食の野菜を切りながら、洋ちゃんに答えた。
「あのさ、もしかして、健ちゃんってさ・・」
洋ちゃんは、野菜を切っているお母さんの横顔を覗きこんだ。
「いや、ヨット教室の帰りにさ、横浜駅で有隣堂に寄りたいっていうから、俺も一緒に行ったんだ」
「そうなの」
「そしたらさ、やっぱ健ちゃんって優等生だわ」
洋ちゃんは、感嘆な声を上げた。
「俺なんかが読んでも、全然わからないような難しい分厚い参考書を広げちゃってさ」
「ええ」
「やっぱ、あいつめちゃ頭良いよ」
「あなただって、頭悪くないんだから。お母さん、あなたのことを、ちゃんと頭の良い子に産んでいるはずよ。だから、あなただって勉強をちゃんとすれば、健ちゃんと同じぐらい勉強が出来るようになれるわよ」
「そうだね。って、俺のことは、どうでも良いんだよ」
「どうでも良くないわよ」
「俺だって、勉強すればわかるようになるのだろうけど、問題は、勉強机に座っても、他のことにばかり気を取られて、ぜんぜん勉強する気になれないんだよね」
お母さんに笑顔でおちゃらけて見せた。
「勉強をやる気にならないじゃないわよ!何なのよ、この間のあの成績は」
お母さんは、洋ちゃんに向かって怒鳴った。
「いや、だから、やる気にはなれると思うよ。試しに、俺の部屋の机に座って、やる気出してくるよ」
洋ちゃんは、これ以上お母さんと話していても、健ちゃんの話どころではなく、やぶ蛇になりそうなので、慌てて自分の部屋に一旦退却することにした。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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