ジュニアヨット教室物語28
Photo by Kano Takahashi on Unsplash
「ね、お母さん。けんちゃんなんだけどさ」
洋ちゃんは、学校から帰ってくると、お母さんに話しかけた。
「健ちゃんがどうかしたの?」
「うん。健ちゃんなんだけどさ。昨日、一緒にヨット教室でヨット乗ったんだけど・・」
「その前に、あんた、学校から帰ってきて手とか洗ったの?」
「え。まあ、手は後で洗いに行くけど」
「外から戻ってきたら、まず手をしっかり洗ってきなさい」
お母さんは、洋ちゃんに注意した。
「はーい」
洋ちゃんは、話を中断すると、洗面所に行き、自分の手をよく石鹸で洗い始めた。
「ちゃんとしっかり石鹸を使って、指の先まで洗うのよ!」
お母さんは、台所から大声で洗面所の洋ちゃんに命じた。
「うん、わかっているよ!石鹸もいま使っているから」
洋ちゃんは、手を洗いながら、洗面所から大声で言い返していた。
「それでさ」
洋ちゃんは、洗面所で手を洗い終わってくると、お母さんに続きを話し出した。
「え、なんだったけ」
「だから、健ちゃんの話」
「ああ、健ちゃんね。健ちゃんがどうかしたの?」
お母さんは、キッチンで夕食の準備をしながら、背後の洋ちゃんに返事した。
「あのさ、けんちゃんなんだけどさ」
「ええ」
「昨日、ヨット教室で一緒のヨットに乗ったんだけどさ」
「一緒のヨットだったの?それは良かったじゃないの」
お母さんは、忙しそうに夕食の野菜を切りながら、洋ちゃんに答えた。
「あのさ、もしかして、健ちゃんってさ・・」
洋ちゃんは、野菜を切っているお母さんの横顔を覗きこんだ。
「いや、ヨット教室の帰りにさ、横浜駅で有隣堂に寄りたいっていうから、俺も一緒に行ったんだ」
「そうなの」
「そしたらさ、やっぱ健ちゃんって優等生だわ」
洋ちゃんは、感嘆な声を上げた。
「俺なんかが読んでも、全然わからないような難しい分厚い参考書を広げちゃってさ」
「ええ」
「やっぱ、あいつめちゃ頭良いよ」
「あなただって、頭悪くないんだから。お母さん、あなたのことを、ちゃんと頭の良い子に産んでいるはずよ。だから、あなただって勉強をちゃんとすれば、健ちゃんと同じぐらい勉強が出来るようになれるわよ」
「そうだね。って、俺のことは、どうでも良いんだよ」
「どうでも良くないわよ」
「俺だって、勉強すればわかるようになるのだろうけど、問題は、勉強机に座っても、他のことにばかり気を取られて、ぜんぜん勉強する気になれないんだよね」
お母さんに笑顔でおちゃらけて見せた。
「勉強をやる気にならないじゃないわよ!何なのよ、この間のあの成績は」
お母さんは、洋ちゃんに向かって怒鳴った。
「いや、だから、やる気にはなれると思うよ。試しに、俺の部屋の机に座って、やる気出してくるよ」
洋ちゃんは、これ以上お母さんと話していても、健ちゃんの話どころではなく、やぶ蛇になりそうなので、慌てて自分の部屋に一旦退却することにした。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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