クルージングヨット教室物語132
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「どうした?急に笑い出して・・」
社長室のデスクに座って仕事していた隆は、ふと顔を上げると、目の前の秘書席の麻美子が笑顔で笑っているのを発見して、質問した。
「ああ、ごめんごめん。なんか急に、クリスマスパーティーでの中村さんの笑顔を思い出しちゃって」
「ああ、確かに、あの時の中村さんの笑顔は最高だったな」
隆も、クリスマスパーティーの表彰式のことを思い出して呟いた。
ビンゴ大会が終わると、クリスマスパーティーのステージ上には、クラブレース委員会の委員長を務めるうららの松浦さんが上がって、今年のクラブレースの表彰式へと移った。
「それでは、今年のクラブレースの表彰式ですが・・」
レース委員長の松浦さんが、壇上で話し出した。
「まずは、今年のクラブレースの総合成績を発表したいと思います」
松浦さんは、最初に着順での順位を発表し、続いてレーティングを加味した修正順位、総合順位を発表した。着順では、うららやプロントなど30フィート艇の常にレース上位艇が上位にいる中、今年の優勝艇は、全長わずか24フィート足らずのJ24、ビッグショットになった。
オーナーの赤沢氏が壇上に上がり、理事長から優勝トロフィーを受け取った。
「続いて、クルージング艇部門の成績発表になります」
今年の横浜のマリーナ・クラブレースのクルージング部門の優勝艇は、銀色の船体に、大きく風神雷神のイラストが描かれた「風神」になった。
「そして、今年の総合優勝ですが・・」
レース委員長の松浦さんから、一息貯めてからの発表となった。
「今年の横浜のマリーナ、総合優勝艇はアクエリアス!おめでとうございます」
会場中、驚きの大歓声の中、オーナーの中村さんは、壇上に上がり、理事長から大きな優勝トロフィーと表彰状を受け取っていた。さらに、副賞としてオレンジ色の大きなマット型フェンダーと魚探機能付きのGPS航海機器をもらっていた。
「谷村くん、俺1人では持ちきれないよ」
中村さんに呼ばれて、アクエリアスで長年クルーを務めている谷村が壇上に上がっていた。
「アクエリアスさんは、普段からダブルハンドでお乗りですか」
「いや、今日は彼と私の2人しかパーティーに参加していなくて・・」
「それでは、お2人の優勝コメントをお伺いできますか」
司会から言われて、中村さんは、谷村と一緒にステージ上のマイクの前に立った。
「あと、ラッコも来てよ」
中村さんに呼ばれて、最初は違う違うと首を振っていた隆だったが、陽子と香織を連れて、中村さんたちの立っている壇上に上がった。
「アクエリアス、オーナーの中村です」
中村さんは、壇上で優勝コメントを披露していた。
「それでは、うちのメンバーをご紹介します」
優勝コメントを終えた中村さんは、アクエリアスのメンバー紹介へと移った。
「クルーの谷村くん、ボースンの隆くん、ボースンのナンバー2、陽子ちゃん、そして生徒だった香織くん・・今はラッコでクルーしています」
隆たちラッコのメンバーまでアクエリアスのクルーとして紹介されてしまっていた。
「隆、アクエリアスのボースンにされてしまっていたね」
「ああ、参ったな」
隆は、照れ臭そうに麻美子へ返事した。
「でも、あの時、アクエリアスのボースンにされてしまったのは、まあ良いんだけど、その後の最後に、松浦さんに言われた言葉はきつかったな」
隆は、麻美子に回想していた。
「今年、進水したばかりの新艇なのだから、もう少しラッコも上位の成績に食い込んで欲しかったって言われたことを言っているの」
「そう。その後に、来年のラッコの走りに期待しますって」
隆は、壇上の松浦さんの言葉を思い出していた。
「うちの船は、女の子ばっかなんだし、クルージングするのが主体の船なんだから」
「まあ、そうなんだけどね」
隆は、麻美子に答えた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など
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