「え、それすごいね。香織ちゃんが、お家で作ってきたの?」
「うん、昨日なんか少し時間があったから」
香織は、家で作って持ってきたキッチュを麻美子に手渡しながら答えた。
「ごはん、食べようか」
お昼の時間、久しぶりに貯木場の、イルカのプールに横付けしてお昼ごはんにしていたラッコだった。
「来春からは、ここでお昼ごはん出来なくなってしまうかもしれないな」
隆は、陽子と話していた。
「どうして?」
「来春になったら、ここの貯木場が横浜ベイサイドマリーナに生まれ変わるから」
「横浜ベイサイドマリーナってなに?」
「ここの場所に日本最大級のヨットハーバーが出来るんだよ」
「そうなんだ。ヨットハーバーだったら、ラッコもヨットなんだし泊められるんじゃないの」
「泊められるかもしれないけど、ヨットハーバーだから停泊料を取られるだろうから、今までのように気軽にタダでは泊められなくなるよ」
「そうか」
香織は、隆に答えた。
麻美子は、香織のキッチュをお皿に切り分けて、皆の前に置いた。
「これ、香織ちゃんが作ってきたんですってよ」
「おお、すごい!」
隆は、麻美子から聞いて感嘆した。
「あ、アンドサンクが来た!」
パイロットハウスの窓から貯木場にアンドサンクが入港してくるのが見えた。
「舫いを取りに出てあげようか」
「私、ちょっといい・・」
雪が、舫いを取りに行くのを躊躇していた。
「じゃ、私が取りに行こうか」
「いや、いいよ。だって、あれだけクルーがいっぱいいるのだもの。わざわざ、こっちから舫いを取りに行ってあげなくても、自分たちで結べるだろう」
アンドサンクのデッキ上には、筋肉ムキムキの男性陣がたくさん乗っていた。
「確かに、こんな女ばかりの船から舫いを取りに行ってあげる必要絶対に無いわね」
麻美子も、パイロットハウスの窓から外を確認して、思わず呟いてしまっていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など