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クルージングヨット教室物語72

Photo by David Becker on Unsplash

「うまいじゃん!ちゃんとセイルが風をつかんで孕んでいるよ!」

隆は、陽子から習って、スピンシートのトリムをしている香織に声をかけた。

「うまくできていますか?」

隆に褒められて、嬉しそうな表情を浮かべながら、香織は隆に返事した。

「ほら、香織ちゃんのスピンの操作が良いから、もう風神を追い抜くよ」

隆が言った途端に、アクエリアスは風神の真横をすれ違ってから、追い抜いていった。

「あ、すごい!追い抜いたんだ」

陽子が、後ろに遠ざかっていく風神の姿に感動していた。風神の姿が後ろに遠ざかっていくと同時に、アクエリアスの前方を走っているアンドサンクには追いついていき、追い抜いていた。

「もう1艇も追い抜いてしまったね」

「ああ、次は、いま目の前のブイを周っている何艇かのヨット群にも追いつきたいところだね」

「追い抜きましょう」

隆に言われて、陽子はさらに気合を入れ直してセイルトリムに集中していた。香織の方も、陽子の影響でスピンのセイルトリムに気合い入れ直して取り組み直していた。

「まだ、皆のヨットは当分は戻ってこないよね」

コミッティーボートの船上で待っている麻美子は、瑠璃子たちに聞いた。

「多分、しばらくは誰も戻ってこないよね」

雪が麻美子に答えた。

「それじゃ、少し早いけど、お昼ごはんにしない?」

麻美子は、ギャレーで簡単にサンドウィッチを作ってくると、瑠璃子と雪の3人で食べ始めた。

「隆さんと陽子ちゃんも、アクエリアスでお昼ごはん食べているのかな?」

「たぶん食べているんじゃないの」

サンドウィッチを食べながら、話していた。

「次、ジャイブしたら、そのまま部位に突っ込んで追い抜くよ!」

ラットを握っている隆の指示で、陽子と香織は何回目かのジャイブを繰り返して、ジャイブを重ねる度に、前方を走っていた何艇かのヨット群に追いつくことができていた。

「もう1回ジャイブ行くよ!」

「いつでも良いです!」

隆の指示で、陽子は香織と一緒にジャイブを行なった。初めてのスピンの操作で、最初はぎこちなかった香織も、すっかりスピンを扱えるようになっていた。

ジャイブでさらに加速すると、アクエリアスは、前方を群れをなして走っていた4艇のヨットを一気に一辺に追い抜いていた。

「ブイを周ったら、スピンを下ろして、ジブにセイルを変えて、真上りでゴールへ向かうから」

隆は、この先のコースを2人に説明した。

スピンを上げたり、下ろしたり、ジャイブをしたりとお昼ごはんなど食べている暇は無かった。

「あ、うららがゴールした」

隆は、ゴールラインの方角から聞こえてくるホーンの音が聞こえたので、ゴールライン付近を走っていたうららがゴールしたことを知った。

うららに次いで、プロントやスペクトラル、ビッグショットなどレース艇の連中が次々とゴールしていた。

「ゴールの笛、瑠璃ちゃんが吹いているのかな。忙しそう」

陽子が、艇がゴールする度に聞こえてくる笛の音を聞きながら話していた。

「うららには、流石に追いつけなかったか」

中村さんが、隆に言った。

スタートラインで、あれだけモタモタ遅れて走っていたのに、うららにまで追いつこうと考えるのは、流石に図々しいだろうと思った隆だった。

「それでも、これだけ抜きましたよ」

隆は、後ろを振り向いて、中村さんに話した。スタート時にはビリで走っていたアクエリアスが、今は後ろに9艇ほど従えて走っているのだった。

「もともと、アクエリアスってモーターセーラーだけど、セーリング性能は決して悪くない走りしますから、セーリングスピードは速い方のヨットですよ」

隆は、中村さんに答えていた。

そして、うららに遅れること30分ぐらいで、アクエリアスもゴールした。

「ゴール!」

雪が嬉しそうに、アクエリアスの隆たちの方に手を振っている。瑠璃子は、他のヨットがゴールした時よりも多く、ピーピーピーと笛を吹いて手を振っていた。

「そんなに鳴らさなくてもいいよ」

隆は、瑠璃子の笛に笑っていた。

「隆!お昼、ちゃんと食べた?」

麻美子がアクエリアスのラットを握っている隆に声をかけた。

「食べている暇なんかないよ」

隆は、麻美子の言葉に苦笑していた。

「隆さんの奥様ですか?」

香織が、隆に質問した。

「え、いや、奥さんではないよ。俺、結婚していないし」

香織に、麻美子が奥さんとか聞かれて、隆は照れていた。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など


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