クルージングヨット教室物語52
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「今夜は、釣れたてのお魚があるから夕食の買い出しは行かなくても大丈夫なの」
麻美子は、アクエリアスの中村さんと話していた。
「なんか釣れたの?」
「そうなの、隆が釣りをしようって始めたくせに、ぜんぜん釣れないものだから早々に諦めてしまって、それでも瑠璃ちゃんだけ1人で頑張ってたら大物が釣れたんですよ」
麻美子は、中村さんに説明した。
「大物?」
「シイラって大きな魚」
「シイラは、あんまり美味しくないんだよな」
「隆も、そんな話をしていた」
麻美子は、中村さんに答えた。
ラッコとアクエリアスは、新島港を出港してから無事に、三宅島の阿古漁港に入港していた。昨日の新島港での大混雑がまるで嘘のように、三宅島の漁港にはヨットやボートの姿が1隻も無かった。
東京からのレジャーボートもヨットも、さすがに三宅島まで来る船はいないようだった。
ラッコとアクエリアスが三宅島に入港した直後には、50フィートぐらいある大型のモーターヨットが漁港の岸壁に停泊していたが、そのモーターヨットも、今は阿古漁港を出港してしまっていて、レジャーボートはラッコとアクエリアスの2艇しか泊まっていなかった。
「今夜は、静かな夜になりそうだな」
アクエリアスのクルーたちが岸壁で話していた。
「夕食の前に、お風呂でも行ってきませんか」
隆は、アクエリアスの中村さんに言った。隆も陽子も、もう既にバスタオルなどを持って、お風呂に出かける準備は終わっていた。
「早いな」
麻美子は、慌てて、バスタオルなどのお風呂に行く準備を始めた。
「お風呂行くよ!」
隆たちラッコのメンバーは、船から岸壁に移ると、前に停泊しているアクエリアスのメンバーたちにも声をかけていた。昨日の新島港と違い、漁港が空いているので、二重に停泊する必要もなく、ラッコとアクエリアスは、それぞれ別々に舫いロープで岸壁へ停泊していた。
お風呂は、港から徒歩で10分ぐらいのところにあった。
「日帰り入浴やっていますか?」
漁港の近くの民宿のお風呂を借りた。
「明日は、三宅島の島内を1日観光する感じ?」
「いや、神津島か式根島に移動しようかと」
隆は、明日の予定を麻美子に伝えた。
「せっかく、ここまで来たのに三宅島の島内観光はしないの?」
「レンタカーなんか借りないと、この島は広いから観光できないよ」
隆は、麻美子に言った。
「昔、うちの高校の修学旅行で三宅島に来たことあるけど、その時は生徒皆が自転車を借りて、自転車であっちこっち島内を観光して周ってた」
瑠璃子が、高校時代の思い出を話していた。
「レンタル自転車もあるものな。自転車で周るか?」
「無理。高校生の頃だって、山とか上ったり下りたりきつかったのに、今はぜったい無理」
瑠璃子は、隆に答えた。
「三宅は火山と温泉に、寺ぐらいだけど、ここであんまりゆっくりしていると、お盆休みって1週間しかないから、他の島を巡れなくなってしまうけど」
隆に言われて、明日は、また別の島に行こうって予定になった。
「後、ここの島も牧場があるよ」
「牧場は、もういいよ」
麻美子は苦笑した。
「船に帰って、夕食にしましょうか」
皆は漁港に戻ると、また今夜もアクエリアスのメンバーもラッコのキャビンに集まって、合同の夕食会になった。麻美子は、釣ったシイラを部位ごとに分けて、白身のフライと野菜炒め、お刺身に盛り付けて食卓に出した。
「これがシイラなんですか」
「おいしいな」
シイラは美味しくないと言っていた隆も、アクエリアスのクルーたちも皆、舌鼓を打っていた。
「シイラも料理の腕次第で味が変わるんだな」
「麻美ちゃんは、どこでシイラのお料理を覚えたんですか?」
「サンフランシスコで食べた時の料理のうろ覚えかな」
麻美子は、瑠璃子と話していた。
「麻美子のお父さんって、高級輸入食品の貿易商だものね」
隆が麻美子に言った。
「お父さんの貿易商は、料理となんの関係も無いって」
麻美子は、隆に苦笑した。