クルージングヨット教室物語35
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「あれ、アクエリアスが隣に泊まっているじゃん」
波浮港に戻ってきた隆は、ラッコの横に泊まっているアクエリアスの船体に驚いていた。
「朝、アクエリアスをお見送りしてから、車で出かけたよな」
「うん、皆で手を振ってお見送りしたよ」
陽子は、隆に聞かれて答えた。
「どうしたんだろう?何かエンジントラブルでもあったのかしら」
「中村さーん!」
隆は、アクエリアスの船内に向かって、中村さんのことを呼んでみたが、留守のようで誰も出てこない。
「どこかに出かけているみたいだね」
ラッコの皆は、自分たちのラッコの船内に入ると、入浴セットを持って出てきた。これから、お風呂に入りに行くのだった。昨日は、隆と陽子の2人だけだったが、今日はラッコのメンバー全員で出かける。
「どうせなら、車でお風呂まで行こうか」
入浴セットの準備をして、ラッコの船体から岸壁に降り立つと、目の前に停まっているレンタカーのドアを開けて乗ろうとしたところで、レンタカー屋さんが回収にやって来た。
「本日は、お車のご利用ありがとうございました。お車の方を回収させて頂いても宜しいですか?」
「はい、宜しいです」
麻美子は、隆の手に持っていた鍵を取ると、レンタカー屋さんに手渡した。
「どうせ、レンタカー屋さんだって元町のお店まで戻るんだろうから、途中のお風呂屋さんまで乗せててもらっても良かったよな」
隆は、レンタカー屋さんが運転して帰って行く車の後ろ姿を眺めながら呟いた。
「そんなことしなくても、ちゃんと足があるんだから、すぐ近くなんでしょう。自分の足でお風呂屋さんまで歩いていけば良いでしょう」
麻美子は、隆に言うと、お風呂屋さんへ行く山道を先に歩き始めた。
「歩こう、歩こう、私は元気ー」
麻美子と香代は、手を繋いでトトロの歌を歌いながら、先を歩いて行く。
「行こう」
他の皆も、2人の後を追っかけて山道を歩いていった。
「道、わかるのか?」
先を歩いていく麻美子に、隆は声をかけた。
「一本道じゃない」
山道を歩いて行くと、舗装された道路に出た。舗装された道路に出たところで、麻美子と香代は、皆がやって来るのを待っていた。
「あなたはトトロ、トトロなの!?」
背の低い香代は、お父さんのバスの帰りを待つサツキとメイの真似をして、背の高い麻美子に声をかけて楽しんでいた。
「こっちから見ると、本当にトトロとサツキがいるみたい」
雪と瑠璃子は、山道の下から上で待っている麻美子と香代を眺めながら話していた。
「本当の親子みたいだよな」
隆も、陽子と山道を登りながら、同じことを話していた。
「どっちー」
「どっち?」
麻美子お母さんと娘の香代が山の上からお風呂やさんの方角を聞いていた。
「右!そこからだと、もうお風呂屋の建物も見えているだろう」
隆が、山道を登りながら、麻美子たちに叫んだ。
「かんぽの宿」
隆たちは、昨日も来ているホテルで日帰り入浴を受付でお願いした。
「それじゃね」
昨日は、隆とアクエリアスの面々がいて、陽子が1人だけだったが、今日はラッコの女性クルーたちで、隆だけが男湯で1人だった。
「あ、中村さん」
隆が脱衣所で服を脱いで、お風呂に入ると、そこには中村さんたちアクエリアスのクルーたちがいた。
「どうしたんですか?岡田港に行ったんじゃなかったですか」
「波浮港の沖で良い風だったので、のんびりセーリングだけして、また波浮に戻って来た」
「そうなんですか」
「また、エンジンが故障して止まるといけないと思ってさ。帰りも、隆くんたちと一緒にランデブーで横浜まで帰ろうと思ってね」
中村さんは、隆に説明した。
「そんなにいつもいつもエンジンだって止まらないでしょう」
「いや、また海の真ん中で故障してもなと思ってね」
「あれは故障じゃないし、ただのエアを噛んだだけだから」
隆は、行きにアクエリアスのエンジンが掛からなかった原因を説明した。
「それにしても、うちのクルーたちじゃ、その対処法がわからなかったから」
「帰りも、ラッコと一緒なら安心ってことで」
アクエリアスのクルーたちは、隆に返事していた。
「それじゃ、お先に」
先にお風呂に入っていたアクエリアスのクルーたちが帰ってしまい、隆は、1人でのんびりと大きく身体を伸ばしてお風呂に浸かっていた。
「そろそろ出るかな」
女湯の連中も、お風呂から出ている頃だと思ったので、隆もお風呂から出ると、服を着て男湯を出た。1階下のお風呂場から階段を上がってエントランスのフロアへ向かおうとしていたら、
「隆!」
奥から麻美子に呼ばれた。お風呂場と同じフロアには、階段の手前に卓球台が置いてあって、その奥に食事ができるレストランがあった。
麻美子だけではなく、他の女性クルーも皆、そこに揃っていた。
「今から、ラッコに戻って、お料理を作るのも面倒じゃない」
「だから、今夜の夕食は、ここで食べて行こうってことになったの」
レストランの奥のテーブルには、「ラッコ様」と書かれたプレートが立っていた。
「ラッコに戻って、夕食にしたかった?」
「いや、別に。ここの食事美味しいから、ここで食べて行ってもいいよ」
隆は、麻美子に答えた。