クルージングヨット教室物語24
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「隆さん、起きないの?」
昨夜は、遅くまでラッコを操船していたので朝寝坊をしてしまうのではないかと思っていたが、朝の6時頃に目が覚めてしまった陽子が、横に寝ている隆に声をかけた。
「いま何時?」
「ちょうど朝の6時ぐらい」
「いけない、随分と寝過ごしてしまったな」
隆は、慌ててベッドから起き上がった。
「寝坊してしまったよ」
隆は、陽子と一緒にアフトキャビンを出ると、デッキ上に出た。デッキには、雪と瑠璃子も起きていた。ラットは、香代が握っていた。
「おはよう、ウォッチの間ずっと香代ちゃんにヘルムを取ってもらってしまったの」
麻美子が、起きたばかりの隆に報告した。
「麻美子は、ヘルムを取らなかったの?サボったんだ」
隆は、麻美子に言った。
「香代、疲れたんじゃないの?雪が代わってあげたらいいじゃん」
「私?」
雪は、ラットを握れと言われて、あまり気が進まなさそうだった。
「私が変わるよ」
瑠璃子が、香代からラットを引き継いでいた。
「じゃ、香代ちゃんは一緒に朝ごはんを作ろうか」
麻美子は、香代のことを誘って、キャビンの中に入って、朝ごはんの準備をし始めた。航海中の揺れる船内の中での料理なので、ジャムトーストと目玉焼きの簡単な朝食となった。
朝食が終わった後、風も穏やかだったので、隆と陽子は、フォアデッキに行って、パイロットハウスの窓枠を枕にしてもたれ掛かって、昼寝というか朝寝を楽しんでいた。
昨夜あんまり寝ていなかったし、隆は、いつの間にか本気で眠ってしまっていた。
「隆、隆、起きてよ」
朝寝を気持ちよく寛いでいた隆は、麻美子に身体を揺り起こされていた。
「アクエリアスから電話なの」
「電話?」
パイロットハウスの中では、瑠璃子が無線機で応答していた。
「電話じゃなく無線だろう」
隆は、瑠璃子が無線で傍受している内容を聞きながら、麻美子を訂正した。
「そんなこと、どっちでも良いから。アクエリアスのエンジンが止まってしまったんだって」
麻美子は、心配そうに隆に報告した。隆は、パイロットハウスの中に入ると、無線で話していた瑠璃子に状況を確認した。瑠璃子の話だと、アクエリアスのエンジンが急に停止してしまって、その後、いくらキーを回しても、まったくエンジンが掛からなくなってしまったようだ。
「アクエリアスって今どこにいるの?」
「わからない」
隆も、瑠璃子もパイロットハウスの屋根から顔を出して、海上の周りを見渡したが、アクエリアスの船体の姿は、どこにも見当たらなかった。
「向こうの位置を緯度経度で確認してみな」
瑠璃子は、隆に言われて、無線でアクエリアスの現在地の緯度経度を確認した。瑠璃子は確認し終わると、いま聞き出したアクエリアスの緯度経度を、航海計器にインプットする。
「ずいぶん後方じゃん」
隆は、モニターに映ったアクエリアスの現在地を確認して叫んだ。いまラッコがいる現在地は、ほぼ大島の中央辺り、それに対してアクエリアスのいる現在地は大島の北端、ラッコからかなりの後方だった。もし、アクエリアスのいる場所に迎えに行くとすると、せっかく進んだ進路をまた逆戻りで戻らなければならなかった。
「なんとか、無線で向こうのエンジンの調子を聞き出して、無線で指示してエンジンを掛けられないかな」
また逆戻りして迎えに行くのが面倒な隆は、瑠璃子に言った。
「そんなこと言わないで、迎えに行ってあげれば良いんじゃないの」
麻美子は、隆に言った。
「また一回戻って、また同じ道を辿って、大島の波浮港を目指すのって大変だぞ」
「そんなこと言ったって、それでなんかあったら大変じゃないの!」
麻美子は、隆のことを怒った。
「私がヘルムを取ってアクエリアスまで戻って、また、ここまで操船しようか」
隆のことを怒っている麻美子に、香代が声を掛けた。
「香代ちゃん、そうしてくれる?」
香代は、麻美子に頷くと、パイロットハウスのステアリングを握り、Uターンして、いま来た道をアクエリアスに向かって走り出した。