クルージングヨット教室物語17
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「そろそろ出かけようか」
土曜日、会社が休みの隆は、いつものように麻美子の母親に誘われて、中目黒の麻美子の家でお昼ごはんを食べた後、リビングでのんびり寛いでいた。
「本当に買い換えるのか」
「だって、あの車じゃ、皆が乗れないでしょう」
麻美子は、隆から車の鍵を取ると立ち上がった。
「なんかお腹がいっぱいで歩くのつらいよ」
「それは、隆が来るからって張り切って料理を作りすぎるお母さんに文句言ってよね」
麻美子は、駐車場に置いてある隆の車の運転席に座りながら、隆と話していた。麻美子が運転席に座っているので、隆は助手席に座った。
「どんな車に買い換えるの?」
隆は、運転している麻美子に質問した。
「ラッコの皆が乗れるぐらい広い車にしましょう。6シーターの車ってよくあるじゃない」
麻美子の家の近所にある中目黒の中古車屋に着くと、展示場に置いてある車を物色していた。
「隆は、どんな車が好きなの?」
「俺は、なんでもいいよ。ヨット以外の乗り物にはぜんぜん興味がないから」
隆は、本当に車には興味がないらしく、麻美子と一緒に展示場内の車を物色するのに疲れてきて、ハイエースの車内に設置されていたベンチ型シートに横になって寝転がっていた。
「ね、この車がかわいくない!」
麻美子が見つけた車は、古いエスティマだった。たまご型の丸っこい形をした車で、車内には、前、後ろ、中央と3列シートで、ラッコのメンバー全員が乗っても窮屈そうではなかった。
麻美子は、そのおとぎ話に出て来るみたいな丸いかぼちゃの車に、香代ちゃんと瑠璃ちゃんが乗っているところを想像して、可愛くて乗ってて楽しそうに思えた。
「これ、どうかな!?」
麻美子は、ハイエースの車内のベンチシートに寝転がっていた隆のことを大声で読んだ。
「これに乗るの?運転するのに、サイズが大きすぎないかな」
隆は、一瞬だけ運転席に腰掛けてみてから、その車のデカい運転席に、運転するのを諦めたように運転席から降りながら、麻美子に言った。
「え、そんなにサイズ大きくないよ」
隆に代わって、麻美子が運転席に腰掛けてハンドルを握りながら言った。
「俺、あんまり自動車の運転って上手じゃないからな」
「この大きさなら、いま乗っている隆の車とそんな大きさ変わらないよ」
麻美子は、ハンドルを握ってクルクル回しながら、窓の外の周りを眺めながら、隆に言った。
「奥様、試乗されてみますか?」
中古車屋の営業マンが、麻美子にエスティマの鍵を手渡してくれた。麻美子は、営業マンから鍵を受け取ると、助手席に隆を乗せたまま、店の周りの道を一周してきた。
「これで座席数もサイズ的にも良いんじゃない」
「麻美子が良いなら、俺はなんでもいいよ」
結局、今の隆の車を、その古いエスティマに買い換えることになった。隆の乗っていた車は、まだ購入したばかりの新しい車だったので、その車を売却すると、古いエスティマが余裕で買えてしまった上に、お釣りまでもらえてしまっていた。
買い換えたばかりのエスティマは、中古車屋から麻美子の家まで麻美子が運転して帰ってきた。
「運転しやすい?」
「うん。オートマだし、ぜんぜん楽に運転できたよ」
麻美子は、隆に聞かれて返事した。
「あのさ、渋谷の俺のうちのマンションの駐車場ってけっこう駐車料金高いじゃない」
「そうね」
「この車って、今までの車より屋根高めだし、立体駐車場に入るかどうかもわからないし、麻美子の家のここのガレージに置いておいたらダメかな」
「お母さんも、お父さんも、もう車の運転しないし、ここに置いておくのは別に良いと思うんだけど、ここから自分の家の渋谷に帰るとき、隆はどうするのよ」
「俺は、ここからなら中目黒駅から東横線で帰れるし。麻美子に家まで送ってもらっても良いし」
隆は、麻美子に提案した。
「麻美子って、うちの会社で俺の秘書をしてくれているじゃない。なんなら、ここから会社に行く時も、この車で渋谷に立ち寄って、秘書だけじゃなく、俺の運転手もしてくれないかな」
麻美子は、隆の話を聞いて、思わず吹き出してしまっていた。
「隆って、前にも会社での運転手が欲しいって言っていたものね。うちから渋谷まで東横線で帰るって話よりも、私に運転手になってくれっていう方が話のメインでしょう」
隆の考えていることをズバリと当ててしまっていた麻美子だった。
「それじゃ、早速、明日の日曜日は、隆社長を横浜のマリーナまでお送りするために、買い換えたばかりの自動車でお迎えに行きましょうか」
「頼む」
隆は、腕組みをしながら麻美子に答えた。
「明日は、別に渋谷までお迎えに行かなくたって、隆さんが空いている弟の部屋のベッドで泊まっていけば良いだけじゃないの」
麻美子の母親が、2人の会話に割って入っていた。