DMZ Basecampでの学び トロントの市場について
DMZ Basecampでの学び|トロントの市場について
今回の記事はかなり蛇足的かもしれませんが、どちらかというと自分が向こうで感じたことをインサイト的にあまりトロントのスタートアップ情報も発信されていないなというところでピックアップして抽出して書かせていただきました(サマリーはAIが行っている点ご了承ください)
なぜトロントだったのか
Stanford J-StarX(2025年夏)で「グローバルで戦うfounder」の解像度が一気に上がった一方、自分の中に残ったのは「英語圏で実際に売る・調達する側に立った経験がない」という渇きだった。
その答えがDMZ Basecamp。Toronto Metropolitan University発のアクセラレーターで、世界中から集まったearly-stage founderと机を並べる約1ヶ月でした。
ただ、行ってみて分かったのは「DMZでの学び」よりも「トロントという市場そのものの学び」の方が、自分の事業観を根本から書き換えたということ。今回はそこを中心に書かせていただきました。
トロント市場の解像度:数字で見る現在地
行く前は正直、「カナダ=アメリカの隣の静かな国」くらいの解像度だった。ただ現地に行って初めてわかったこととしては
- トロントは18のユニコーンを生み出した北米屈指のスタートアップハブ
- 2025年にカナダのスタートアップが調達した$4.2Bのうち、約40%をトロントが占める
- エコシステムは2025年に30.6%成長、3,400社超のアクティブスタートアップが存在
- トロントは北米で第3位のテック人材市場(1位San Francisco Bay、2位Seattle)。テックワーカーは285,000人超
- SR&ED税制でR&D費用の還付が年間最大$3.5M、Startup Visa Programで海外起業家の流入も加速
- 運営コストはシリコンバレー比で30〜40%安い
「東京から見えるカナダ」と、「現地で皮膚感覚で見るトロント」は完全に別物だった。
体感した4つの学び
学び①:トロントは「AIの首都」を本気で取りに来ている
最大の発見はこれ。Vector Instituteには962人の研究者が在籍し、30以上の産業パートナー、300以上のスタートアップと連携している。Geoffrey Hinton("AIの父")が顧問を務め、University of Torontoの機械学習ラボがエコシステムの中核。
肌で感じたのは、Cohere(NLPユニコーン、評価額$5B+)やWaabi(自動運転、2026年1月にユニコーン化)といったAI企業が、「シリコンバレーに行かなくても勝てる」という意思表示として育っていることだ。
Cohere創業者Nick Frosstは「シリコンバレーから出てくる世界観は、世界の多くが望むものではない。カナダが望むものでもない」と公言している。これは挑発ではなく、戦略的ポジショニングだと理解した。
学び:日本のAIスタートアップも「東京 vs シリコンバレー」の二項対立ではなく、「Not Silicon Valleyな選択肢の一つ」としてアジアからグローバルに展開する道がある。
学び②:政府がfounderを"国家資産"として扱う
カナダ政府はCohereを「Canadian champion(カナダの代表選手)」として明確に推している。SR&EDで研究開発費の30〜35%が還付され、Startup Visaで海外起業家を積極的に招き入れる。
トロントで会ったfounderの体感では、「政府が邪魔しないどころか、レバーを引いてくれる」という前提が空気として存在する。日本で「経産省・JETROにどう食い込むか」を消耗戦のように考えていた自分にとって、この"前提の差"は衝撃だった。
学び:日本でも、橋本バレー構想(私が関与する相模原のスタートアップエコシステム構築プロジェクト)を「政府/自治体に陳情する」のではなく「政府/自治体の資源をレバーとして使う」という発想にアップデートした。
学び③:多文化都市は「グローバル展開の試金石」になる
トロントは人口の約半分が移民。DMZのコホートにも、インド、ナイジェリア、ブラジル、ウクライナ、韓国......multinationalなfounderが集まっていた。
ここで気付いたのは、トロント市場で売れるプロダクトは、UI/UX・カスタマーサポート・法務の全てで「multilingualかつmulti-cultural」を前提に設計されているということ。これは結果的に、そのまま米国・EU・アジア展開できる"グローバル素体"を作っていることになる。
学び:パケパケ(FDE+BPaaSパッケージ)を「日本SME特化」で設計するか、「最初からアジア横展開可能な抽象度」で設計するかで、5年後のTAMが1桁変わる。プロダクトの初期設計に"国境を渡れる粒度"を入れるようになった。
学び④:FintechとAIの融合がトロントの真の競争優位
トロントはカナダの金融首都であり、Vector Instituteを介してTD Bank、RBCなどのカナダ五大銀行が直接AI研究と連携している。これは「銀行がAIプロダクトの消費者」ではなく「研究開発の参加者」になるという、独特の構造を生んでいる。
Radical Venturesのような$2.5B規模のAI特化型VCが生まれ、AI企業が「Sand Hill Roadに移転しなくても育つ」環境が成立している。
学び:日本のSME向けAI(パケパケが狙う領域)も、金融機関や地銀との連携を「販路」ではなく「共同開発のパートナー」として捉え直すべき、という仮説を持ち帰った。
DMZ Basecampでの体験的学び(補足)
トロント市場の構造的優位は上記の通りだが、「現地founderと机を並べた」体験から得た主観的学びも書き残しておきたい。
- Think Bigは設計思想だった:北米founderは事業を語る最初の3分でTAMを"Global $XXB"で語る。これは虚勢ではなく、プロダクト設計・採用・調達ストーリーの全てがそのスケールで逆算されている。
- 顧客対話の回転速度が桁違い:「今週何人と話したか」で進捗を語る文化。"綺麗な仮説より汚いn=50"が圧倒的に強い。
- Foundersは"弱さ"を共有資産にする:苦戦・失敗・資金不足を躊躇なく開示する文化。「completeに見せる」より「helpを引き出す」に最適化されている。
帰国後、何が変わったか
DMZでの学びを携え、2026年4月にGugen株式会社を共同創業。
- パケパケを「日本SME向け」ではなく「アジア圏のオペレーション基盤」として再定義
- Gugen Lab(130名のAIコミュニティ)の運営思想に「弱さの開示」を逆輸入
- 橋本バレー構想を「政府レバーを引く」発想にアップデート
- X-Gate 9をはじめとするグローバル志向のアクセラレーターへ挑戦
最後に:日本のfounderへ
「シリコンバレーに行くべきか?」という問いに、私はこう答えるようになった。
「シリコンバレーは"世界の中心"ではなく"選択肢の一つ"。トロント、ロンドン、シンガポール、ベルリン......それぞれに固有の優位性がある。自分の事業の重力に合った場所を、最初の1ヶ月で見極めに行くべき」
DMZ Basecampは、その見極めに行くための最高の経験だった。日本の若手foundersに、心から推したい体験です。
Taiki Mishima|Gugen株式会社 Co-Founder & CEO